もっと詳しく

 第165回天皇賞が5月1日、阪神競馬場で行われ、単勝2番人気、横山和生騎手騎乗のタイトルホルダー(牡4、美浦・栗田徹厩舎)が快勝した。これでG1を2勝目、昨年、急逝した父ドゥラメンテの後継種牡馬となり、父系をつなぐ可能性が出てきた。

■父ドゥラメンテは2021年急死

写真はイメージ

 タイトルホルダーは先手を取って1000mを60秒5で通過、次の1000mは63秒1とスローに落としたところで勝負ありと言っていい結果となった。上がり3ハロン36秒4を記録、逃げた馬がメンバー中、最速の上がりをマークしたのだから、2着ディープボンドとの7馬身差も、ある意味、当然と言っていい。

 この勝利で昨年の菊花賞に続くG1制覇となった。競走馬の生産事業ではステイヤーは敬遠される傾向があるが、菊花賞と天皇賞(春)の2つのタイトルがあれば、今後のレースぶり次第ではあるが種牡馬になれる可能性はある。もちろん、秋の天皇賞などの中距離G1を手にすれば、種牡馬入りは間違いない。

 タイトルホルダーの父は2015年の二冠馬ドゥラメンテ。2017年から種付けを開始したが、2021年に死亡しており、産駒はわずかに5世代しかない。それでも初年度産駒からタイトルホルダーという後継種牡馬候補が誕生し、父系が繋がっていく希望が出たのは競馬ファンには嬉しい出来事と言える。

 日本は種牡馬の墓場と言われた時代があり、欧米から高額な種牡馬を導入しても父系が三世代繋がることは稀だった。サンデーサイレンス以前の話であるが、いくつか例を挙げてみよう。

パーソロン→シンボリルドルフ→トウカイテイオー

ノーザンテースト→アンバーシャダイ→メジロライアン→メジロブライト

テスコボーイ→トウショウボーイ→ミスターシービー

テスコボーイ→サクラユタカオー→サクラバクシンオー→グランプリボス

 活躍馬の孫、その孫と父系が繋がっていくのは競馬の楽しみであり、ドゥラメンテという優れた馬がわずか5世代の産駒しか残せなかったにもかかわらず、その父系が20年先、30年先と続いていけば、それは血のロマンと言っていい。

■スペシャルウィークの血を繋ぐ

 似たような例が、今年のG2UAEダービーを優勝したクラウンプライド(牡3、栗東・新谷功一厩舎)である。父リーチザクラウン、その父が1998年のダービー馬スペシャルウィーク(その父サンデーサイレンス)。サンデーサイレンス系の種牡馬が大量に存在する状況とあり、スペシャルウィークの父系も菊花賞馬トーホウジャッカルが後継種牡馬を出せなかった時点で途絶えるのはほぼ確実と思われていた。

 ところがマイナー種牡馬と言っていいリーチザクラウンの産駒クラウンプライドが今年UAEドバイでG2UAEダービーを優勝。5月7日のG1ケンタッキーダービーに挑むことになり、種牡馬となる可能性が出てきた。

 日本馬のケンタッキーダービーでの最高着順は2019年のマスターフェンサーの6着であるが、ドバイでの走りを見る限り、それを上回る結果が期待できる。

 サンデーサイレンスの系統はディープインパクト、ハーツクライ、ステイゴールドを通じて、日本では異例と言っていい、かなり長期間、血が繋がっていくと予想されるが、そこにスペシャルウィークの系統も加われば同馬を取材した者としては特別な感慨がある。

■ドバイミレニアムは1世代のみ

UAEドバイのメイダン競馬場(メイダンレーシングのTwitterから)

 世界的に見れば、ドゥラメンテの例よりもレアなケースがある。それが2000年のG1ドバイワールドカップを制したドバイミレニアム。現役時代は10戦9勝、G1を4勝し、ラストランとなったG1プリンスオブウェールズSは2着に8馬身差をつける圧勝だった。主戦のデットーリ騎手が「これまでで最高の馬」と評価したことでも知られている。

 種牡馬入りしても大変な人気であったが、1世代を遺したのみで現役引退の翌年2001年に死亡。伝説の名馬も1世代だけでは後継種牡馬が出るのは難しい、その血は途絶えるかとも思われたが、数少ない”虎の子”からドバウィという名馬が誕生した。愛2000ギニーなどG1を3勝し、故障したこともあって3歳で現役を終えて種牡馬となった。

 初年度産駒からマクフィ、モンテロッソと日本で種牡馬になったG1馬を出し、その後もポストポンド、ベンバトル、ガイヤース、トゥーダーンホットなど次々と後継種牡馬を出している。昨年は英・愛サイアーランキングで3位となり、今年4月30日には産駒のコロイバスという馬が英2000ギニーを優勝した。

 これだけの後継種牡馬を出し続けたのは、ゴドルフィンのシェイク・モハメド殿下が思い入れのあるドバイミレニアムの後継種牡馬に良質の繁殖牝馬を集めたということがあるのかもしれないが、いずれにせよ、当面、父系は繋がっていくことが予想される。ドバイミレニアムが唯一遺した種牡馬から数多くのG1馬が誕生し、細い糸を未来へ繋げる。これも競馬の他のスポーツにない魅力と言える。

■未来に繋がる勝利

 ドゥラメンテに限って言えば、タイトルホルダーに続く世代から後継種牡馬が出るかもしれないが、4世代でタイトルホルダー以上の馬が出る可能性はそれほど高くはないと思われる。

 そう考えると、タイトルホルダーの春の盾優勝は未来に繋がる勝利となったと思う。