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 他人様の懐具合を詮索するなんてあまりいい趣味とはいえませんが、かつては景気のいい話も聞かれたトラックドライバーの賃金にはちょっと注目せざるを得ません。

 働き方改革の波がいよいよトラック運送業界にも押し寄せ、再来年の4月1日から時間外労働の年間の上限960時間が導入されるなど、いわゆる「2024年問題」が取り沙汰されているからです。

 物流が滞ってしまうのではないかとトラック業界では懸念しているわけですが、働き方改革によってドライバーの拘束時間や労働時間が短縮され、休日も取れるようになることは基本的に歓迎すべきこと。

 でも、働き方改革によって、ただでさえ全産業平均より低いトラックドライバーの給料が今以上に下がってしまうのではないかという声が、ほかならぬトラックドライバーからも出ています。

 特に「歩合」で稼ぐことが多い長距離トラックドライバーの実態はどうか? 九州発の長距離運転手のひろしさんにリアルな給料の実情を赤裸々に語ってもらいました。

文/長距離ドライバー・ひろしさん、写真/「フルロード」編集部
*2017年3月発行トラックマガジン「フルロード」第24号より


免停が怖い「完全歩合制」

長距離トラックドライバーのリアルな給料の実態! 日本の物流は彼らの頑張りだけに支えられている!!
免停を喰らえば収入が断たれてしまう

 「長距離トラック運転手の仕事をしていたら給料いいでしょう!?」とよく聞かれます。確かに毎日家に帰れる仕事に比べたら良いですね。……だって働いてる時間が違いますもん!

 家の布団でゆっくり眠れるのは週1日~2日程度で、丸々の休みはよくて月に1日~2日くらい。赤裸々にリアルな給料を告白したら、総額40万~45万円。引かれものをして、手取り30万~35万円くらいは貰ってます。

 その金額が高いのか安いのか? 拘束されている時間で時給換算してみたら、切ない金額が算出されるので……、止めときましょう。

 給料形態は会社によって違いますが、うちの会社の場合は完全な歩合制となっています。1回走って幾らの世界です。なので、給料を誤魔化される心配はないですし、自分でも計算がしやすい仕組みになっています。

 しかし、1回走って幾らっていうのも良し悪しで、行き先によって手当が違ってきます。片道計算で関東は3万円、静岡・山梨は2万6000円、関西は1万7000円などとなっています。

 なぜ良し悪しかというと、関東を例にあげると、神奈川県の小田原と栃木県の那須は、距離にして200~300km、時間にして4~5時間離れていますが、関東の端と端でも同じ関東料金での計算なのです。

 仕事内容も関係ありません。バラ荷で作業に3~4時間かかっても、パレット荷でウイング開けて30分で終わる作業でも、行先が関東ならば一律で3万円の支給になります。

 月に関東を7~8往復すれば総額40万~45万円くらいの計算になります。給料明細上は基本給やいろいろな手当が振り分けされていますが、基本給はありません。本数走れば給料が多いし、本数走らなければ給料が少ない。自分次第でどうにでもなる仕組みとなっています。

 一番恐いのが免停などになった時です。1航海も走れず、倉庫作業などの業務も無いため、給与が全くありません。過去に180日間の長期の免停になった際は、3カ月間会社に出勤することもできず、短期のアルバイトでしのいだ苦い経験もありました。

儲からない理由は「中抜き」

長距離トラックドライバーのリアルな給料の実態! 日本の物流は彼らの頑張りだけに支えられている!!
中小・零細の運送会社では運賃の中抜きが経営を圧迫している

 他の会社の話で聞くのが、売上制の給料です。月の売上(運賃)の何%が給料になるシステムです。会社によって割合は違うと思いますが、このシステムはトラブルが起こりやすいようです。

 会社は運賃を運転手に提示しない。バラ積みなど体力的にキツイ仕事をしたからといって、必ずしも運賃が良いわけではないし、逆に精密機械などのパレット荷を運んで、リフト荷役の体力的に楽な仕事のほうが運賃が良いこともある。

 「キツイ仕事=運賃が良い」なら、多少のバラ荷作業も我慢できるでしょうけどね。運転手の間で「誰々は楽な仕事なのに給料は良い」など、会社や配車に対して疑心暗鬼になってトラブルに発展しやすいらしいです。

 うちの会社は1回走って幾らのシステムなので、この手のトラブルはないですが、全体的に見てやはり給料は安いと思います。

 関東の運転手と話をする機会があって、「月に何回走ります?」とか、「月にどのくらいの距離走ります?」って話になった時に、「じゃあ片手(=50万円)くらい余裕であるでしょ!」って言われたことがあります。地域格差があるので、九州の給与水準は基本的に低めです。

 しかし、最大の原因は、やはり荷主から実際に走る運送会社までの間に何社も何社も入っていることです。元請け→下請け→孫請け→……。ひどい時には元請けから最終の指示を出してくれる会社までに、何件電話連絡入れるんだ!? って時もあります。

 間に挟んだ件数だけ運賃の中抜きがあるわけですから、大手以外はなかなか儲からない仕組みなんですよね。

 運送業界に限ったことじゃなく、他業種でも同じような現象は起きていると思います。日本の伝統といいますか、しょうがないことなんでしょうが、弱者強者の関係で、下請けに位置する人間が損をする悪しき習慣だと思いますね。

好きな仕事だから頑張る

長距離トラックドライバーのリアルな給料の実態! 日本の物流は彼らの頑張りだけに支えられている!!
好きな仕事だから頑張る! 道はまだまだ続く

 昨今、運送業界ではドライバー不足が問題になっていると聞きます。地場仕事ならともかく、長距離は確実に何かを犠牲にしなければ務まりません。

 家族との時間であったり、地元に戻っても仮眠時間にあてたりと、遊びに行くような余裕がないので、確実に友達は減りますね(笑)。

 運送会社は賞与、退職金、有給休暇は無いのが当たり前ですし、組合があり会社と交渉するようなシステムがあったりするのは一部の大手運送会社だけです。

 それでも給料が良いなら人材も不足しないでしょうが、ハイリスクの割には普通のリターンだし、よっぽどトラックが好きか、身体を動かすのが好きな人間じゃないと運送仕事は務まらないでしょう。

 僕自身、退職金も無い会社で働き続けることに対して将来の不安が無いわけではありません。ただ、自分が好きでやり始めた仕事であり、自分が好きな会社なので、倒れるまで働き続けてやろうって意気込みで、日々踏ん張っている毎日です……。

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