2021年には、国内で新車として売られたクルマの37%を軽自動車が占めた。軽自動車は、最も多く販売されているカテゴリーだ。
今は全高が1700mmを上まわり、スライドドアを装着するスーパーハイトワゴンと呼ばれるタイプが高い人気を得ている。4名で快適に乗車できて、後席を畳むと自転車も積めるから、ファミリーでも使いやすい。新車として売られる軽乗用車の50%以上がスーパーハイトワゴンだ。
スーパーハイトワゴンの先駆けは、2003年に発売された初代タントだが、販売を急増させるきっかけになったのは、2011年の末に登場した先代(初代)N-BOXだ。2012年の届け出台数は1カ月平均で1万8191台だったが、2012年には1万9583台に増えて、市場に定着していった。
2017年に発売された2代目の現行N-BOXは、最近の新型コロナウイルスによる影響で苦戦するが、コロナ禍前の2019年には1カ月平均で2万108台を届け出した。先代型からの乗り替え需要もあって販売は好調だ。
また軽自動車では「低燃費と低価格」を特徴とするタイプも人気で、アルトは1979年に初代モデルを発売して以来、代表車種として好調に売られている。
そこでN-BOXとアルトについて、現行モデルと、10年前(2012年)に販売されていたタイプを比べてみたい。10年前のN-BOXは、2011年に登場した先代型で、アルトは2009年から2014年まで売られていた2世代前の先々代型になる。
文/渡辺陽一郎、写真/HONDA、SUZUKI
【画像ギャラリー】内外装の質感が大幅アップ!! N-BOX・アルトの現行モデルと10年前のモデルを写真で比較(31枚)画像ギャラリー
居住性と積載量が向上!! 10年前よりも使い勝手さ抜群に!!
比較1:ボディサイズとエンジンの排気量
現在の軽自動車規格は,1998年に施行され、その後は変わっていない。従って10年前も現在も、N-BOX、アルトともに、全長は3395mm、全幅は1475mm、エンジン排気量は660ccで共通だ。これは軽自動車規格いっぱいのサイズだから、もはや拡大できない。
「変化がない」と表現すると欠点のように思えるが、軽自動車規格が変わらないから、小型/普通車と違って、フルモデルチェンジを行ってもボディを拡大せずに済んでいる。これは軽自動車が人気を高めた理由でもある。
*変化度数:0点(採点は10点を満点にしています)
比較2:内外装のデザインと質感
N-BOX、アルトともに、10年前に比べて内外装の質を高めた。N-BOXは、先代型の高人気によって好調に販売できることが実証され、現行型は高いコストを費やして開発されている。
またN-BOXを始めとするスーパーハイトワゴンの好調な販売により、軽自動車の質感に関する平均水準が高まり、アルトも10年前に比べると内外装が上質になった。10年前に売られていた2世代前のアルトは、安さを重視している印象が強かったが、先代型で少し改善され、現行型では質感を大幅に引き上げた。
*変化度数:6点
比較3:居住性や積載性
N-BOXは、先代型の時点で車内の広さを追求していた。従って室内空間はほぼ同じだが、現行型になってシートアレンジは進化している。先代型を発売した時点では、後席にスライド機能が備わらず、マイナーチェンジで追加すると床が高まった。
それが現行型では、後席に左右分割式のスライド機能が最初から装着され、荷室の床面地上高も470mmと低い。荷物を出し入れしやすく荷室の使い勝手を向上させている。
アルトは後席の快適性を大幅に高めた。身長170cmの大人4名が乗車したとき、10年前に販売されていた2世代前のアルトでは、後席に座る乗員の膝先空間が握りコブシ1つ少々だった。
それが現行型なら2つ半に達する。SUVの後席に当てはめると、10年前のアルトの膝先空間はヤリスクロスと同等だったが、現行型はハリアーに近い。4名乗車時の快適性は大きく向上した。
*変化度数:8点
燃費性能&先進安全装備が大幅にバージョンアップ!! 気になる価格の変化はいかに
比較4:動力性能とエンジンフィーリング
エンジンは進化しているが、後述する燃費性能の向上が大きい。動力性能はあまり変わっていない。
例えばノーマルエンジンを搭載する先代N-BOXのG・Lパッケージは、最高出力が58馬力(7300回転)、最大トルクは6.6kg-m(3500回転)だった。現行N-BOXのLは、58馬力(7300回転)、6.6kg-m(4800回転)だ。
新旧N-BOXを比べると、数値は同等だが、最大トルクの発生回転数は現行型で上昇しており、実用回転域の駆動力が数値上は少し悪化している。
そのいっぽうで車両重量は、先代型のG・Lパッケージは930kg、現行型のLは900kgと若干軽い。アルトも含めて、動力性能は先代型と同程度だ。
*変化度数:5点
比較5:走行安定性と操舵感覚
走行安定性と操舵感覚は、プラットフォームや足まわりの刷新によって向上した。N-BOXは、先代型は操舵感が鈍めで峠道などを走ると曲がりにくい印象だったが、現行型では違和感が薄れた。先に述べた通り、高いコストを費やして開発したことも影響している。走りが全般的に上質になった。
アルトは2世代前と現行型の比較だから、運転感覚がかなり違う。2世代前はホイールベース(前輪と後輪の間隔)が2400mmだったが、2014年に登場した先代型から2460mmに拡大され、プラットフォーム(車台)も刷新している。
現行アルトではチューニングをさらに見直して、タイヤをワゴンRスマイルと同じタイプに改めたから、走行安定性が一層向上した。この2車種を始めとして、近年の軽自動車は、安全性を左右する走行安定性を大幅に高めている。
*変化度数:8点
比較6:乗り心地&静粛性
N-BOXの現行型は、前述のとおり高いコストを費やして開発された。プラットフォームを刷新してボディ剛性も高め、上質な素材を使っている。そのために10年前の先代型に比べると、乗り心地は走行安定性以上に向上した。遮音も入念に行われ、ノイズも低減されている。快適性は小型車と同等だ。
アルトも2世代前に比べると、走行安定性と併せて乗り心地を向上させた。2013年に追加された2世代前のアルトエコは、転がり抵抗を抑えたタイヤを装着して、指定空気圧は300kPaに達していた。足まわりのコスト低減もあり、乗り心地が粗く、グリップ性能も悪かった。それが現行型はかなり快適になっている。
*変化度数:9点
比較7:安全装備と運転支援機能
現在と10年前のクルマを比べて、最も進歩した分野が安全装備と運転支援機能だ。N-BOXの場合、 約10年前に発売された時点では、横滑り防止装置、4輪ABS、運転席&助手席エアバッグは標準装着されていたが、衝突被害軽減ブレーキと運転支援機能は採用されていなかった。2013年に赤外線レーザーを使った低速用の衝突被害軽減ブレーキと、サイド&カーテンエアバッグを採用している。
それが現行N-BOXには、誤発進抑制機能、歩行者事故低減ステアリング、車間距離を自動制御できる全車速追従型クルーズコントロールなど、さまざまな安全装備が標準装着されている。
10年前のアルトは、装備がさらにシンプルだったが、現行型には衝突被害軽減ブレーキ、後退時ブレーキサポート、サイド&カーテンエアバッグなどが標準装着される。
*変化度数:10点
比較8:燃費性能
先代N-B0Xが登場したときのJC08モード燃費は22.2km/Lだった。それが現行型は27km/L(WLTCモード燃費は21.2km/L)に向上している。先代型から現行型に乗り替えると、燃費数値上は燃料代を18%節約できる。
10年前に販売されていたアルトエコSは、JC08モード燃費が30.2km/Lで、現行型のハイブリッドSは33.1km/L(WLTCモード燃費は27.7km/L)だから、約9%の節約が可能だ。
*変化度数:9点
比較9:価格の割安感
消費税率は、10年前の時点では5%だった。それが2014年に8%、2019年には10%へ高まっている。クルマの価格が高く感じられるのは、そこに含まれる消費増税によるところも大きい。
そこまで含めて比べると、2011年に発売された先代N-BOX・G・Lパッケージは134万円であった。現行型のN-BOX・Lは157万9600円だ。仮に先代型の時点で消費税が10%なら140万3810円になる。
それでも現行型は約17万円高いが、安全装備や運転支援機能の充実を考えると、むしろ割安になった。衝突被害軽減ブレーキとサイド&カーテンエアバッグの上乗せだけで、17万円の差額が埋まるからだ。アルトも同様で、装備の向上と消費税の切り上げを考慮すると、現行型が割安になる。
*変化度数:7点
比較10:税額
前述のとおり10年前の消費税率は5%だったが、今は10%に増えた。毎年納める自動車税も、10年前は自家用軽乗用車が年額7200円だったが、2015年4月1日以降の届け出では1万800円に値上げされている。
また今では、初度届け出から13年を経過すると、軽自動車税が年額1万2900円に高まる。自動車重量税も通常の2年分は6600円だが、13年を超過すると8200円、18年は8800円になる。軽自動車の税制は悪化した。
*変化度数:0点
総評
●10年前に比べて軽自動車が良く変わったこと
内外装の質感、居住性やシートアレンジ、走行安定性、乗り心地、燃費性能、安全性、運転支援など、さまざまな機能やデザインが向上した。特に安全装備の進化は、今日の軽自動車を購入する大きなメリットになっている。
●10年前に比べて軽自動車が変わらなかったり悪化したこと
機能や装備の向上を考えると、価格は10年前より割安になったが、所得も伸び悩む。クルマは良くなっても、ユーザーの経済的な負担感は増えている。
また古い車両を増税する誤った制度も実施されている。公共の交通機関が未発達な地域では、高齢者が日常的な通院や買い物に、古い軽自動車を使う。コロナ禍によって所得が下がり、新車に乗り替えられない軽自動車ユーザーも増えた。そのような人達を増税で苦しめている。古いクルマの増税は即座に撤廃すべきだ。
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投稿 10年前から激変!? N-BOXとアルトにみる軽自動車の進化&全方位検証 10選 は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。