マツダの将来を占う「ラージ商品群」の第一弾 CX-60。プロトタイプへの評価、ラージ・アーキテクチャーの課題と将来性について、評論家10人の声を聞いた!
※本稿は2022年4月のものです
文/国沢光宏、岡本幸一郎、竹岡圭、鈴木直也、塩見智、萩原文博、石川真禧照、橋本洋平、桃田健史、山本シンヤ、渡辺敏史、写真/MAZDA、ベストカー編集部 ほか
初出:『ベストカー』2022年5月26日号
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■まずはCX-60&ラージ・アーキテクチャーのおさらい
●ラージ・アーキテクチャーとは?
ラージ・アーキテクチャーにはFR、縦置きエンジン(直6、直4)、PHEV、48Vマイルドハイブリッド、8速ATなどマツダが新開発した技術がテンコ盛り。
日本、欧州市場にはラージ・アーキテクチャーを採用するCX-60とCX-80(3列シート)が、北米市場には一回りワイドなCX-70とCX-90(3列シート)が展開される。
●CX-60の日本仕様が公開
ラージ・アーキテクチャーを採用する新世代ラージ商品群第一弾のCX-60だが、4月7日に日本仕様の概要が公開された。
直4、2.5Lガソリン、2.5Lガソリン+PHEV、直6、3.3Lディーゼル、3.3Lディーゼル+48VマイルドHVの4種類のパワートレーンが設定されている。
いずれも縦置きエンジンとなり、新開発されたトルコンレスの8速ATが組み合わされる。
ロードスターに初搭載された車両挙動制御技術KPC(キネマティックポスチャーコントロール)や、ドライバー緊急時に事故の回避・事故の被害軽減を支援するDEA(ドライバー異常時対応システム)の初採用など、新技術が多数投入されているCX-60。
次項から評論家の評価を見ていく。
■国沢光宏はこう見る
●CX-60プロトの評価は?
世界規模で見るとイマドキ直列6気筒だの後輪駆動だのが商品力になるとは思えないけれど、作ってしまったら売るしかない。
「走りの味」を訴求するうえで最も大きな課題は、スムーズさとアクセルレスポンスの改善。エンジンはいいけれど、モーター使うパワーユニットの伝達系がイマイチです。アクセル全開しても1秒以上無反応。モーターなし車はバッチリだ。
●ラージ・アーキテクチャーの課題と将来性は?
藤原副社長がマツダ車作りを仕切るようになって以後、顧客のニーズを受けたクルマ作りを止め、藤原さんが考える理想のクルマ作りを始めた。スポーツモデルやモータースポーツにまったく興味なし! ラージ商品群のような高額車を売ろうとすればブランドイメージが必要。
いくら高機能のカバンを作っても、ブランド品の価格じゃ売れないです。さてCX-60売れるか?
■国沢光宏の採点……70点
・PHEVのフィーリング 2
・直6ディーゼルのフィーリング 5
・ハンドリング 4
・ミッションフィール 1
・ブレーキフィール 5
・乗り心地・快適性 3
■岡本幸一郎はこう見る
●CX-60プロトの評価は?
ディーゼルは3.3Lというわりには控えめな気もしたが、思わず踏みたくなるような迫力あるサウンドが印象的。8速ATがトルコンレスというのにも驚いたが、危惧したギクシャク感もあまりなくスムーズでダイレクト感もあった。
PHEVは走り味が望外に軽やかなことに感心。高出力モーターによる力強くスムーズな走りも好印象。SUVとして新感覚の走る楽しさがあった。
●ラージ・アーキテクチャーの課題と将来性は?
いろいろ新しいことにもチャレンジしていて、なるほど! と思えるような仕上がりだったことには違いない。動きが素直で、4輪が路面を捉える感覚も絶妙だ。
ただし、日本では大きいと感じる人が多いだろうし、我々はよしとして、一般ユーザーにそのよさをちゃんと理解してもらえるだろうかという気もする。ああ、それを上手く伝えるのが我々の役目か……(笑)。
●岡本幸一郎の採点……85点
・PHEVのフィーリング 5
・直6ディーゼルのフィーリング 4
・ハンドリング 4
・ミッションフィール 4
・ブレーキフィール 4
・乗り心地・快適性 4
■竹岡 圭はこう見る
●CX-60プロトの評価は?
特に感動したのはPHEVモデルのほう。音の感じも含めて、ずっとエンジンがかかっているかのような、EV走行の概念を覆してくれるフィーリング。けっこうな勾配の坂をグッと駆け上がる時でも、エンジンかかりませんでしたからね。
ディーゼルのほうは、開発段階が違ったこともあり、全体的にもう少し煮詰めが必要かな〜という感じでしたが、トルクだけに頼らない新しさは期待大です。
●ラージ・アーキテクチャーの課題と将来性は?
最近のマツダは、とにかくカッコよさで目を惹きますよね。誤解を恐れずに言うと、これまではそのカッコよさと裏腹に、あくまで私の体格だと視界的に厳しいものも多かったんです。
でも、今回はそのあたりがクリアされていたので、より安心してアクセルを踏める感じでした(笑)。それに応えてくれるかのようなドッシリ安定感のあるコーナリングは爽快そのもの。ワクワクします。
●竹岡 圭の採点……87点
・PHEVのフィーリング 5
・直6ディーゼルのフィーリング 3
・ハンドリング 4
・ミッションフィール 5
・ブレーキフィール 4
・乗り心地・快適性 4
■鈴木直也はこう見る
●CX-60プロトの評価は?
6気筒ディーゼルは予想よりマイルドなパワーフィール。そのバックグラウンドには技術的に面白いネタが隠されているのだが、商品としてはもうちょっと強いトルク感が欲しい。
逆に、予想以上にパワフルで面白いと思ったのが4気筒のPHEV。シャシーのポテンシャルは期待を裏切らないものだったから、4気筒PHEVが日本市場では売れ筋になると予想する。
●ラージ・アーキテクチャーの課題と将来性は?
マツダ車としては未経験の価格帯に足を踏み入れるだけに、やはりも最も気になるのは価格設定。敷居を上げすぎると、マツダ3の発売初期のようにスタートダッシュに失敗する恐れがある。
上級モデルは内容の濃さでユーザーを納得させられると思うが、数を売りたいと思ったらエントリーグレードにも工夫が必要。BMWで言うなら318が重要ってことですね。
●鈴木直也の採点……90点
・PHEVのフィーリング 4
・直6ディーゼルのフィーリング 3
・ハンドリング 3
・ミッションフィール 2
・ブレーキフィール 3
・乗り心地・快適性 4
■塩見 智はこう見る
●CX-60プロトの評価は?
ディーゼルもPHEVもパワーはもっと欲しいけれど、キリがないのも事実であり、充分といえば充分だ。触れ込みどおりの燃費性能が備わっているのであれば、言うことなしのパワートレーンだろう。
PHEVについては前後にモーターを使い段付きの変速をしないトヨタや三菱のほうが加減速がよりスムーズなのではないか。あくまでプロトタイプ試乗段階の感想だが。
●ラージ・アーキテクチャーの課題と将来性は?
400万円未満で縦置きレイアウトの新車を味わえるであろう点には期待しかない。不安なのはサルーンに関する情報が一向に聞こえてこないこと。
推測だが、縦置き&多気筒は、本来SUVではなくマツダ6後継車のための構想だったはず。車名はマツダ6でもコスモでもルーチェでもいい。なんとか市販してほしい。魂動デザインの卒業制作みたいな、ぶちカッコいい姿で。
●塩見 智の採点……80点
・PHEVのフィーリング 4
・直6ディーゼルのフィーリング 4
・ハンドリング 4
・ミッションフィール 3
・ブレーキフィール 4
・乗り心地・快適性 5
■石川真禧照はこう見る
●CX-60プロトの評価は?
PHEV、直6ディーゼルともに〇なところは、ハンドリングのナチュラル感と、素直さ。これはマツダが長年研究してきた人間工学とクルマの在り方を考えたクルマづくりの成果だ。新開発の8速ATも低速域でのシフトショックなど改良点はあったが、これも今度の発売には解決しているハズ。
×なところはスタイリング。そろそろこのスタイリングも飽きがくるのでは?
●ラージ・アーキテクチャーの課題と将来性は?
CX-3、CX-5など一連のSUVのヒットで得た儲けをつぎこんで開発したラージ商品群だが、その開発の理由が既存ユーザーの受け皿という。果たしてマツダのユーザーはみんな上級移行志向なのだろうか?
新商品は、技術者たちの説明を聞けば、凄くいい商品ということがわかるが、一般ユーザーにそれが伝わるかが鍵となるだろう。ひと言でわかるキャッチフレーズが欲しい。期待より不安が現時点では勝っている。
●石川真禧照の採点……85点
・PHEVのフィーリング 4
・直6ディーゼルのフィーリング 5
・ハンドリング 5
・ミッションフィール 4
・ブレーキフィール 5
・乗り心地・快適性 4
■橋本洋平はこう見る
●CX-60プロトの評価は?
直6ディーゼルは欧州勢のそれとはやや違い滑らかさと力強さがもう少し欲しい。PHEVは意外にも高回転までスカッと吹け上がる。EV走行中でもシフトを繰り返す制御は新しいが必要か? そしてクラッチのつなぎ方でギクシャクするのは要熟成かと思う。
シャシーは明らかに限界重視ではなく、一体感あふれる連続したフィールがマル。SUV界のロードスターといっていい。
●ラージ・アーキテクチャーの課題と将来性は?
多段ATをようやく手にできたこと、そして新たなるディーゼルやPHEVを搭載したことでマツダの明るい未来が少し見えた。ふたつのクラッチの制御など、まだ課題はいくつかあるが、これをクリアして販売台数増加に繋げてほしいと期待する。
一方の不安はこのユニットをいつまで使い続けられるのか? 一刻も早く投資回収し利益がしっかり生まれることを祈っている。
●橋本洋平の採点……65点
・PHEVのフィーリング 4
・直6ディーゼルのフィーリング 3
・ハンドリング 5
・ミッションフィール 2
・ブレーキフィール 4
・乗り心地・快適性 4
■桃田健史はこう見る
●CX-60プロトの評価は?
CX-5やCX-8と比べると、圧倒的に見切りがいい、しかもピッチングが少なくフラットライドですっきりと走れる。少々大げさに言えば、コーナリング中は、背の高い直列エンジンではなく水平対向エンジンのような低重心感。事実上のフロントミドシップによる効果が大きい。
世界的なディーゼル逆風、さらにマツダとして高価格を市場がどう受け入れるのか?
●ラージ・アーキテクチャーの課題と将来性は?
これまでマツダが行ってきた技術的な説明だけ聞いていると、「本当にこれが今の世のなかに通用するのか?」という一抹の不安があった。それが、実物に触れ、また事業としての展開について詳しく聞くと、腑に落ちる点が多かった。
CX-5を代表とする2012年以来の第六世代と進化した新しい商品群との違いを、販売店を通じてユーザーにしっかり説明することが必要だ。
●桃田健史の採点……90点
・PHEVのフィーリング 5
・直6ディーゼルのフィーリング 5
・ハンドリング 5
・ミッションフィール 4
・ブレーキフィール 3
・乗り心地・快適性 5
■山本シンヤはこう見る
●CX-60プロトの評価は?
感じたのは、飛び道具に頼るのではなく基本に忠実で“オーガニック”なクルマに仕上がっていたこと。ここは高く評価できると思います。ただ、これが「マツダらしさなのか?」というと疑問が残る。
個人的には「基本素性がいいからOK」ではなく、その素性を活かし、「やっぱりマツダじゃなきゃ」と思える味つけが欲しい。
みんなが期待しているのは澄んだ水ではなく美味しい出汁だと思う。
●ラージ・アーキテクチャーの課題と将来性は?
期待できる部分は、これまで苦手だった高付加価値商品が提供しやすくなり、台数ではなく利益率で勝負できるようになる可能性があること。不安はマツダの悪い癖……クルマの仕上がりがいいので、調子に乗って身の丈以上のこと(=プレミアム化)をしようと考える恐れがあることだ。
ラージプラットフォーム投入の本質は「効率化」であることを忘れてはダメである。
●山本シンヤの採点……85点
・PHEVのフィーリング 4
・直6ディーゼルのフィーリング 4
・ハンドリング 4
・ミッションフィール 3.5
・ブレーキフィール 3.5
・乗り心地・快適性 4
■渡辺敏史はこう見る
●CX-60プロトの評価は?
〇:パッケージが変われど、インターフェイスは相変わらず完璧。FR系車台ではちょうど運転席足元あたりに来る4駆のトランスファーも自社設計で小型化するなど、運転環境に並ならぬこだわりを感じました。
×:運動性能にまつわる指標がちょっと変わって、より素直に着色がなくなりましたが、せっかくFR由来なのに味がわかりにくくなったと受け取られるかもしれません。
●ラージ・アーキテクチャーの課題と将来性は?
今回乗った個体は試作ゆえ音振や変速制動等のタッチ面で少し粗さがありましたが、スジとしてはかなりいいものを持っているという手応えはありました。
明快な個性が見えないという懸念はありますが、もし巷間で噂されている金額が本当(300万円〜!?)だとすれば、クルマ好きは狂喜乱舞でしょう。個人的には非HEVで4駆の直6ディーゼルが本丸だと思っています。
●渡辺敏史の採点……82点
・PHEVのフィーリング 4
・直6ディーゼルのフィーリング 4
・ハンドリング 4
・ミッションフィール 3
・ブレーキフィール 4
・乗り心地・快適性 4
■まとめ
いかがだっただろうか。俯瞰してみると、PHEVとディーゼルの評価はPHEVのほうがやや評価が高いが全体的にどちらも好印象。評価が分かれたのはミッションフィールで、まだまだ熟成の余地があるということ。
100点満点の採点は、まだCX-60がプロトタイプであることに注意してほしい。マツダ開発陣がここから最後の仕上げを行うため、製品版ではまた評価が変わるハズだ。
CX-5を引き続き残すことからも、そこよりは高めの価格レンジとなるはず。その点を心配する評論家も多かったが、ユーザーはどう判断するのだろうか。
【番外コラム】CX-60の注目ポイント
●エンジンと音の作りこみが凄い!!
4気筒PHEVのベースエンジンは、CX-5などにも使われている2.5L直4NAエンジンだ。わりとなんの変哲もないエンジンと言っていい。
ところが、モーターアシストが加わることでドライブフィールが一変する。中速域からグイッと盛り上がるトルク感は素の2.5Lとは大違いで、CX-8の2.5Lターボが、さらに上まで伸びてゆくような感覚のスポーティな走りが味わえる。
おまけに、スピーカーによってエンジンサウンドが演出されているのだが、これが予想以上に効果的。最初は「人工的なフェイクでしょ?」と侮っていたのだが、まるでスポーツカーみたいなサウンドで走りを盛り上げる。悪くないよ〜コレ。
●新技術多数投入の注目メカを紹介!!
技術的にいちばん興味を持ったのは、トルコンの代わりに湿式多板クラッチを使った8速AT。過去にメルセデスAMGなどが採用した例があるけど、こういう量産モデルが全面採用するのは初。PHEVや48Vマイルドハイブリッドなど、電動デバイスと併用することで実現したトランスミッションだと思われる。
エンジンでは6気筒ディーゼルターボエンジンが新しい燃焼理論を導入しているのが面白い。トルクを少し絞っているが、その分低コストの排ガス浄化システムで規制をクリアしている。
シャシーでは、キャスターを立ててステアリングギア比をあえて遅めにした「逆張り」セッティングをしている。これもマツダらしくて非常にユニークだ。
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