トラックドライバー不足が叫ばれて久しいが、依然としてトラック運送事業における有効求人倍率は全産業平均の約2倍、運転手はピーク時より約21万人減少し、人手不足は深刻だ。
そこで国土交通省と全日本トラック協会は検討会を設置し、女性と60歳以上の男性をドライバーのなり手として積極的に採用していこうと「女性ドライバー等が運転しやすいトラックのあり方」を2019年に取りまとめている。
これはメーカーへのヒアリングやドライバー・事業者へのアンケートを行なうなどしたもので、女性や高齢ドライバーの声が反映されている。
女性や高齢ドライバーを積極採用するためにはどんなトラックが求められているのか? その取りまとめ結果の一部を紹介していこう。
文・写真/フルロード編集部
※2019年6月発売「フルロード」第33号より
■当該ドライバーは最新のトラックをどう評価する?
平成28年排ガス規制の施行に当たり、メーカー各社が中・大型トラックのモデルチェンジを一斉に発表した「ニューモデルラッシュ」から約5年が過ぎた。
新型車の普及が進む今、最新のトラックはどう評価されているのだろうか? 女性や高齢ドライバー(検討会では両者を合わせて「女性ドライバー等」と呼んでいる)、事業者からの評価は、トラックのあり方を考える上で基礎となる情報だ。
女性ドライバー758名、60歳以上の男性ドライバー(高齢ドライバー)879名、女性職員299名、運送事業者305件に対するアンケート結果から、最新トラックの評価を見ていこう。
まず運転席まわりについては、女性、高齢ドライバーともにおおむね高く評価している。特に「キャビンの乗降性」「運転に適したシートの調整範囲」「ミラー類(後方視界を除く)やメーター類の見やすさ」「スイッチ類の使いやすさ」などの項目は8割以上が良いと評価した。
MTを使用しているドライバーがAT・AMTを「使ってみたい」と答えた割合は、女性で約5割、高齢ドライバーで約7割と男女で差がある。
安全技術は「衝突被害軽減ブレーキ」「車線逸脱警報」「車両安定制御システム」などが大型車中心に既に義務化されているが、その他にあると良い運転支援装置や先進技術として「バックアイカメラ」(2022年5月より二輪や特殊自動車などを除く新型車に義務化)「ドライブレコーダ」「ACC(定速走行・車間距離制御装置)」の順に多く挙げられている。
各種装置ともに半数以上が「あると良い」と評価しており、安全装置の装着を望むドライバーが多いことが窺える。
ボディまわりや荷役性については、全体的に「後部ドアの開閉のしやすさ」「日常点検の容易性」が好評価となるいっぽう、「ロープ、シート掛けの容易性」「テールゲートの使い勝手」などの評価が低くなっている。
特に女性ドライバーからは「荷台の乗降性」を改善してもらいたいという声が多い。また、事業者からは良くなってきた内容として「テールゲートリフタの導入」「ウイング車の導入」「扉・あおりの軽量化」などが挙げられた。
■意外と知られていないオプション
トラックメーカーはユニバーサルデザインに基づいたキャブ設計を行なっており、最近では試乗会などを通じて女性ドライバー等のニーズを把握しようとしている。
実際に最新のトラックにおける「ステアリングスイッチの導入」「取手やステップの改善」「室内・収納スペースの改善」「ミラー類の改善」「安全装置の導入」などは、女性や高齢ドライバーから高く評価されている。
いっぽう架装メーカーでは事情が異なる。一般に架装メーカーの顧客はトラックの販社(ディーラー)であって、ユーザー/ドライバーのニーズを直接聞く機会が少ないからだ。必然的にボディは多数派を意識した設計となり、女性ドライバー等からの評価は決して高くない。
ただ、「取手やスイッチの位置」「リアステップの幅や奥行き」など、ユーザーが女性専用の架装を直接依頼するケースもある。
架装メーカーとしても、後部から荷台に上がりやすくする「ステップバンパー」、あおりにステップを埋め込んだ「あおりステップ」、滑り止め加工やLED庫内灯、テールゲートリフタの装着など、女性・高齢ドライバーに向けた対応をしているのだが、オプション仕様や設計思想の違いなどもありメーカーごとに状況が異なっており、ユーザーに知られていないことも多い。
架装メーカーの取り組みに関しては、メーカー同士での情報の共有とドライバーへの周知が課題となりそうだ。
■女性ドライバー等が望む改善点
運転席まわりの課題・改善点として最も多かったのは、女性、高齢ドライバーともに「小物入れの充実度」だった。そのほかに両者ともに要望が多いのは、「ミラー類(後方・左側視界)」「スイッチ類の使い勝手」「キャビンへの乗り降り(ステップの位置)」「シートの調整範囲(背もたれ角度・座面の位置)」など。
構成比は女性と高齢ドライバーで異なっており、「UVカットガラス」や「ラウンドカーテン」は女性ドライバーから、「室内灯の明るさ」「ベッドスペース」などは高齢ドライバーから要望が多い。
身長の差などにより、後方・左側が見にくいと感じる人が多く、バックアイカメラや電動ミラーの導入、アンダーミラーの標準化などを求める声が多くなっている。高齢ドライバーを雇う事業者からは、ステップ等の乗降性の改善を求める意見も寄せられている。
ボディ・荷役性に関わるものとしては、ともに「荷台への乗降性」に対する要望が最多となっている。内訳としては「ステップ・はしごが必要」「荷台が高い」「ステップ・はしごの高さ等の改善」「取手が必要」などで、やはり体格差に起因する問題も指摘されている。
その他の意見としては「側面あおりが重い」「後部扉の改良」「荷台の照明を明るく」など。荷役作業は手積みにしてもパレット積みにしても荷台への乗降が完全になくなることはないので、三点支持が確保できるような取手・ステップ・はしごの設置は重要だ。
事業者から見た荷台まわりの意見としても乗降性に関するものが最多となっており、女性ドライバー等の定着のためには、こうした部分に配慮したトラック・架装が求められる。
■トラック運送業界とトラックの「あり方」
人手不足解消のためには、現在働いているトラックドライバーの雇用を維持するとともに、新しい人材を確保し、年齢が上がっても働き続けられる環境を整備することが重要だが、そのためには労働災害の抑制が不可欠だ。
労災の発生状況をみると「墜落・転落」が全体の29%を占めており、年齢が上がるほど増える傾向にある。死亡災害に限ると「交通事故」が41%と最も多く、「墜落・転落」「はさまれ・巻き込まれ」を合わせると、この3つで全体の約7割を占める。
ソフト面の取り組みに加えて、運転から荷役作業まで総合的にトラックの安全性を考慮する必要がある。事業者(運送会社)の視点から見ると、女性ドライバーの採用に前向きな企業が9割近くを占めており、完全な「男社会」であった運送業界の意識は変わりつつある。
いっぽう高齢ドライバーの雇用意欲は7割弱にとどまっているが、採用後の定着率は高い傾向にある。
なお、女性職員へのアンケートで改善点として多く挙げられたのは「子育て支援」「トイレ・シャワー等の設備」「勤務体系の改善」などで、車両や作業内容より職場環境に問題があると感じているようだ。本題からは外れてしまうが、事業者の努力にも期待したい。
「未来のトラック」というと、自動運転や電動化といった新技術を思い描いてしまうし、「将来の物流」と聞けば、隊列走行やダブル連結トラックの様に車両や物流の見直しが必要だと思ってしまう。
しかし調査を通じて見えて来たのは、安全性や操作性、荷役作業性の着実な改善が求められているということで、それは女性ドライバーや高齢ドライバーだけでなく、誰にとっても運転しやすいトラックの「あり方」でもある。
自動車業界の変革期に当たって、ムーンショットではない現実的な「これからのトラック」について議論を深めていくことも重要ではないだろうか。
投稿 女性・高齢者の積極採用はドライバー不足解消の切り札となるか!? 誰にとっても運転しやすいトラックとは? は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。