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ウクライナで絶大な効力を実証! イーロンが車載用スターリンクを開発中?

 自宅にアンテナとルーターを設置すれば人工衛星とダイレクトに接続でき、世界のどこからでも高速回線が利用できる衛星インターネット・サービス「スターリンク」。イーロン・マスク率いるスペースX社が提供するこのブロードバンドサービスは、ウクライナに緊急提供されたことでも話題となったが、その戦時下ではクルマにも車載され、砲撃部隊のシステムにも使用されるなど、絶大な効果を発揮している。

 今回はウクライナにおけるスターリンクの活用と、イーロン・マスクvsロシアの様相をレポートしたい。

文/鈴木喜生、写真/SpaceX

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軌道上のスターリンク衛星は、現在2097機

ウクライナで絶大な効力を実証! イーロンが車載用スターリンクを開発中?
軌道上でパネルを展開するスターリンク衛星。1機の質量は現行機で230~260kg(SpaceX)

 スターリンクとは、イーロン・マスク氏がCEOを務めるスペースX社が提供する、小型衛星を使用したインターネット・サービスだ。

 その通信を担う「スターリンク衛星」は、1回の打ち上げで60機がまとめて宇宙に送られる。地球を周回する軌道に到達すると、それら小型通信衛星は間隔を空けて放出され、宇宙空間にズラリと並んで航行するのだ。

 現在すでに2097機(5月18日時点)が軌道上にあるが、打ち上げごとに軌道の傾き(傾斜角)を変えているので、大量のスターリンク衛星が地球全体をカバーするように飛んでいる。その軌道図はまるで毛糸玉のような状態。最終的に計4万3000機が打ち上げられる予定だ。

 このシステムの最大のメリットは、世界のどこからでも高速回線に接続できるという点にある。光ファイバー・ケーブルを設置できない離島、僻地、途上国、紛争地帯でも、専用のアンテナとルーターさえあれば、衛星を通じてブロードバンド回線に接続することが可能だ。

 また、既存の通信衛星や放送衛星が、高高度の「静止軌道」(高度3万5800km)に配置されているのに対し、スターリンク衛星の軌道高度は約540~570km(現運用機)と低い。つまり、地上からの距離は静止軌道と比べて65分の1しかなく、通信の遅延が少ないという利点もある。

 スターリンクは2020年8月にアメリカでのテスト運用が始まったのを皮切りに、現在ではカナダ、南米、オーストラリア、欧州、東欧などでのサービスが開始されている。日本での個人ユーザー向けサービスは、2022年の第三四半期(Q3、7~9月)を目途に、東京の一部エリアで開始される予定。すでにスペースX社のサイト(英語版)で予約が開始されている。

 スターリンクを利用するには、アンテナやルーター、ケーブルなどの専用キットを購入する必要があるが、この初期投資が499ドル(約6万3900円、1ドル128円換算)。月々の使用料は世界共通で99ドル(約1万2700円)だ。現在は円安なこともあり、少々割高感があるのは否めないが、ネット環境や居住エリアによっては最善のツールとなるだろう。

ウクライナの要請に即応したイーロン・マスク

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スターリンクのキット(左)と、それがウクライナに到着した際にフェドロフ副首相がツイートした写真(Mykhailo Fedorov, Twitter)

 このスターリンクの名を、一躍世界に広めたのがウクライナ戦争だ。

 ロシアの侵攻直後の2月26日、ウクライナ副首相(兼デジタル変革大臣)のミハイロ・フェドロフ氏は、「ウクライナでスターリンク・サービスを利用させてほしい」と、イーロン・マスク氏にツイッター上で要請した。

 そのわずか10時間30分後、マスク氏から副首相に返信が届いた。「今、スターリンク・サービスはウクライナにおいて使用可能な状態にあります。さらなるターミナル(キット)を(ウクライナに)輸送中です」。両者のやり取りは世界に見届けられ、即座に報道された。

 スターリンク衛星は地球全体をカバーするように航行しているが、電波の使用認可が下りていない国の上空を通過する際には使用不可な状態にある。マスク氏は、まずはそのシステムをウクライナで使用可能な状態(active)にし、さらにアンテナやルーターなどからなるターミナル・キットを短時間で手配し、無料提供したのだ。

 その結果、1週間後の3月1日には副首相からマスク氏に向け、「スターリンクは、今ここにあります、ありがとう@elonmusk」とのツイートが写真とともにアップされた。

スターリンクをフル活用するウクライナ

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新バージョン「スターリンク・ビジネス」のアンテナは長方形。シガーソケットから電源が取れるので車載も可能だ(Mykhailo Fedorov, Twitter)

 ウクライナにおいて、スターリンクは絶大な効力を発揮した。インフラが寸断されたウクライナ各地において、電源さえ確保できればアンテナと衛星をつないで世界と通信することが可能となった。

 また、スターリンクは通常、直径55cmのアンテナを自宅などに設置して使用するが、ウクライナに配送されたキットには新バージョンも含まれていたらしい。ピーク電力が低減化されたことにより、車のシガーソケットからも電源が取れ、新しく搭載されたモバイル・ローミング機能をオンにすれば、走行中のクルマからも使用できたのだ。

 それだけではない。スターリンクのシステムは、ウクライナ軍が使用している砲撃支援システム「GIS arta」にも使用されている。5月14日の英タイムズ紙では、このGIS artaシステムをウーバー・タクシーの配車アプリに例えている。

 つまり、ウクライナ軍の砲撃部隊がGPSを搭載したタクシーの現在地であり、砲弾がタクシー、そのタクシーを待つユーザーがロシアの戦闘車両などだ。タクシーをもっとも早くユーザーに配車する、つまり着弾させるには、どの部隊から砲撃するのが最も適切かを、このシステムは1分ほどで解析するという。

 また、ロシア軍の位置を知るためにはドローンも使用されている。ドローンが取得した画像や位置情報などはスターリンク衛星に送られ、GIS artaシステムを介して他の部隊と共有しているのだ。こうした作戦の成功を喜ぶウクライナ兵が「Thank you! Elon !」とツイートする様子も拡散されている。

イーロン・マスクvsロシア

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スターリンクの打ち上げにはスペースX社のファルコン9が使用されている。その最頂部(フェアリング内)には、スターリンク衛星60機がひとつのユニットとして搭載される(SpaceX)

 ウクライナ軍の効率的な攻撃にスターリンクが関与していることは、当然ながらロシアも認識している。3月5日にはマスク氏が、
○スペースXがサイバー攻撃を受けたこと
○ウクライナにおけるスターリンクの地上端末が、数時間に渡って妨害信号を受けたこと
などをツイートした。しかし続けて、
○ソフトウェアのアップデートによって、この妨害電波を回避したこと
を報告している。

 また5月9日には、マスク氏は1枚のレポートをツイッター上に公開した。ロシアには、米国におけるNASAのような役割を果たすロスコスモスという国策企業があるが、そのCEOであるドミトリー・ロゴージンが、ロシアのメディアに送ったと言われる文章が掲載されたのだ。

 マスク氏がどこからそれを入手したかはわからないが、そのメモには、
○スターリンクの地上端末の輸送をペンタゴン(米国防総省)が行ったこと
○それは捕虜となったウクライナ軍の大佐の証言から判明したこと
○ウクライナに協力したマスク氏を、ロシアは非難すること
○イーロンはこの件に関して責任を負うことになること
などが記されていた。

 米国政府は戦争の拡大を避けるため、今回の戦争において常に距離を保ちつつある。一方で、民間企業のCEOであるマスク氏のウクライナに対する協力は、予想以上の効果があったため、ロシアの癇に障るところとなったようだ。

 しかし、ロゴージンからの脅しに臆することもなく、マスク氏は、「もし私が不可解な状況で死ぬことがあったら、あなたと知り合えて光栄だったと思うだろう」と、冗談めかしてツイートしている。

 長期化の様相を呈するウクライナ戦争ではあるが、スターリンクというシステムが単なるインターネット・サービスでなく、国際情勢を左右し得るツールであることを、今、世界が実感しているに違いない。

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