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<p>【笠原一輝のユビキタス情報局】 元レノボジャパン社長のベネット氏、ジム・ケラー氏とRISC-V CPUを作る</p><p>【笠原一輝のユビキタス情報局】元レノボジャパン社長のベネット氏、ジム・ケラー氏とRISC-V CPUを作る</p><p>レノボ・ジャパン合同会社、およびNECパーソナルコンピュータ株式会社の代表取締役を6月3日に退任したデビッド・ベネット氏が、6月6日(現地時間)付けで米国のAIプロセッサベンチャーの「テンストレント」(Tenstorrent)のCCO(最高顧客責任者)に就任した。</p><p>NECレノボグループでの4年間を経て、ベネット氏が次のステップとして選んだのがテンストレント。2018年にカナダのトロントで設立された半導体ベンチャー企業だ。テンストレントでベネット氏はCCO(最高顧客責任者)として、顧客と開発者の間の壁をなくし、顧客コミュニティを構築する職務にあたる。 テンストレントを創業したのはCEOのルビシャ・バジーク氏など、AMDでベネット氏の同僚だったメンバーだ。テンストレントが提供しているAI向けプロセッサ製品が「Grayskull」だ。Grayskullは、CPUやGPUを使うより、AIの学習、推論演算をより効率よく、より高性能で行なうためのプロセッサになる。 Grayskullには「Tensix cores」というプロセッサコアが内蔵されている。Tensix coresは、5つのRISCプロセッサ、Tensor処理を行なう演算ユニット、浮動小数点演算を行なうためのSIMDユニット、ネットワーク処理を迅速に行なうアクセラレータ、圧縮/複合演算器、そして1~2MBのSRAMという構成になっている。 テンストレントは、ハードウェアと開発用のソフトウェアをセットにして提供しており、「PCI Expressのボードからブレードサーバー、ラックまでスケールアップできる。そしてオンプレミス向けのソリューションだけでなく、クラウドベースでの提供も行なっている」(ベネット氏)と、現代のAI開発のトレンドをおさえた設計になっている。 テンストレントの社員数は180名で、そのほとんどがエンジニアだけだったという。しかし、さらなる成長を目指してマーケティングやカスタマーサポートなどの充実を図っている段階になっており、その担当者として選ばれたのがベネット氏ということになる。 ジム・ケラー氏が作るRISC-Vベースの汎用CPU ジム・ケラー氏(2018年Intel在籍当時、Intel Architecture Day 2018で筆者撮影) 約2千人の従業員を抱えるNECレノボ・グループのトップから、社員数約180人というベンチャー半導体のCCOへの転身。単純に考えると、ベネット氏個人としては、キャリアダウンのように映るのではないだろうか。 ベネット氏自身も「そう思われてしまう側面もあるが、今42歳でまだリスクが取れると考えた」と答える。ただし、それは「低リスク」の挑戦だと考えているという。その理由は、テンストレント社長兼CTOであるジム・ケラー氏の存在だ。 ケラー氏の名はCPU業界では鳴り響いている。1990年代の終わりにはAMDのAthlonプロセッサ(K7)の開発に関わったほか、在籍していたP.A.Semiが2008年にAppleに買収されると、iPhoneやiPadのSoCとしてリリースされるApple Aシリーズの開発に関わった。その後、AMDに復帰すると、Zenアーキテクチャの開発に携わり、2017年にAMDがRyzenとしてリリースした。現在のの快進撃は、今さら筆者が説明する必要もないだろう。 その後自動車メーカーTeslaに転職した後、2018年にIntelにマイクロプロセッサ開発の主任アーキテクトとして加入し、2020年までの約3年間IntelでCPUなどの基本設計を主導した。CPUメーカーが基本的なアーキテクチャを決めて製品が登場するまでは3~5年はかかると言われているので、今や今後Intelから登場しつつある製品はケラー氏の影響下で設計された製品だと言っていい。 つまり、今のAMD vs Intelという構図はどっちも、元ジム・ケラーチーム同士の戦いだと言える。 ケラー氏がIntelを2020年に退社した後、入社したのがテンストレント。ベネット氏によれば、実は2018年にテンストレントが設立された時、ケラー氏は既に出資者の一人になっており、Intelを正式に退社した後で同社に加わった。 ベネット氏は「ジムのビジョンに賛同したというのが今回の転職を決めた最大の要因だった。実はジムと今回の移籍に関して初めて話をしたのは去年(2021年)の4月。それからずっと返事を待ってもらっていて、今回まとまった形になる」という。 現在ケラー氏は、RISC-Vの汎用CPUの開発をしている。AIを補完し、CPU技術を進化させるための高性能なRISC-Vプロセッサになる。 これまでのケラー氏の実績を考えれば、氏がゼロから設計するRISC-V汎用CPUは、大きな期待が集まるプロジェクトであることは間違いないだろう。だからこそベネット氏は、NECレノボ・グループのトップという安定したポジションを捨てて、新しい挑戦をするのだろう。 ▲</p>