乗用車からトラック・バス、超大型建機まで、電気自動車の時代になっても欠かせないパーツともいえるタイヤは、縁の下の力持ちのごとく人々の暮らしや経済活動を支えていると言っても過言ではない。
そのタイヤの歴史は、古くは約5000年前からあったとされている。
しかし、誰もが知る黒いゴム製になったのは今から約100年ほど前のことで、現在のタイヤはさまざまな発見と発明がもたらした偶然の産物であった。
そんなタイヤのゴムの進化を現役タイヤマンのハマダユキオ氏が解説していきます。
文/ハマダユキオ 写真/ハマダユキオ・フルロード編集部・美川ボデー
※2018年9月発売「フルロード」第30号より
■ゴム製タイヤが誕生するまでの長い歴史
タイヤの歴史は古く、5000年前のユーフラテス河口域の遺跡の壁画に描かれていた車輪は木製の回転体で、これがおそらくタイヤの起源とされています。
その後、木の回転体に動物の皮を被せたモノになり、2000年前のローマ時代には木製車輪に鉄製の輪っかを焼きはめるという、当時としては斬新、画期的なモノへと進化します。
その後約1900年間このスタイルは変更されておりません。凄いですね~。そう考えるとゴムタイヤの歴史はまだまだ浅く、現代の我々は、その進化の目撃者となり得るわけです(笑)。
そしてあの歴史上の超著名人、イタリアの探検家コロンブス様が出先のハイチ島という所で超絶な発見をします。「ゴムの発見」です。
ただ当時の技術等では利用価値は無かったようでして、防水布やおもちゃ的な使用法のみで約200年間放置プレーされてしまいます。
そして今から150年程前に、ようやく車輪の外周にゴムが付いたものが登場します。まだ空気入りではなく、ゴムのみの「ソリッドタイヤ」ですね。最高速度は約30km/hくらいで、長時間ドライブしようものなら熱で煙が出るありさまで、絵面的にはドリ車の感じでしょうかね。
そして空気入りタイヤ誕生の有名なエピソードです。1888年ダンロップさんが息子の自転車の乗り心地の悪さに、空気入りタイヤを製作してタイヤ史上初めて地上を走行致しました。親心ってやつでしょうか? 空気の他にタイヤには愛も充填しておるのです。
その愛ある親心のおかげで今日のさまざまな空気入りタイヤが世界中を走っていると思うと、ダンロップさんは偉大なのであります。
ここで間違いやすいのは、ダンロップさんは考案というか発明はしておらず、少々遡ること43年前の1845年にトンプソンさんって方が空気入りタイヤを発明して特許まで取っておりました。
しかし時代が早すぎたのでしょうか? 実用化はおろかアイディアも忘れ去られるという事態に……。ちなみにトンプソンさんはダンロップさんと同じスコットランド人で発明家らしいです。覚えておきましょう。
■偶然の発見「加硫」がもたらしたもの
クルマの進化に伴い、乗り心地や耐久性、そしてより速く安全にクルマが走れるようにタイヤも進化をしてきました。
発明あるあるで「偶然」というのがありますが、タイヤの進化にも偶然が関係しています。
アメリカの発明家のグッドイヤーさんが生ゴムの欠点を解消する研究をしていたのですが、ある日ゴム製の靴を履き、偶然にもゴム部分に硫黄がかかったままストーブの前で居眠りをしてしまい、気づけば「加硫」しているという事態に……。
この加硫というのは分子レベルでの化学結合で、高温になってもベタつかず、力を加えて引っ張っても元に戻るという素晴らしい発見だったんですね~。ゴムは加硫していない状態ですと引っ張ってもちぎれるだけで使い物にはなりません。
ゴムに硫黄を加えると、分子レベルで架橋っていう反応が起きます。これは読んで字のごとく分子同士の「橋を架ける」ことで、硫黄によってゴム同士が繋がって、引っ張ってもちぎれない弾性のあるゴムができるのです。
ちなみにこのグッドイヤーさんはあのタイヤメーカーのグッドイヤーとは直接的な関係はありませんが、社名の由来になっているようですよ。
■BFタイヤが発明したカーボンブラック
加硫によってゴムが強化されて暫くはタイヤの色は黒くなく、輪ゴムのようなアメ色だったようなのですが、クルマの進化とともにタイヤもさらに進化を遂げます。
輪ゴムは加硫のみのゴム製品で、伸ばすと縮まるという特性を利用しているのですが、古くなったり直射日光に当てると、あまり力を加えなくても切れますよね? クルマのタイヤがすぐに劣化するのは困りものです。
そこで、加硫ゴムを強くする補強材がカーボンブラックなんです。まぁニホンゴでいうならば炭です。加硫ゴムに炭を加えることで飛躍的にゴムが強くなり、紫外線によるゴムへのダメージにも効果ありでございます。カーボンブラックの使用量はタイヤ重量の約3割で、トレッドの耐久性は約10倍向上するようです。
ちなみに加硫ゴムをカーボンブラックで補強するっていうのを発明、実用化したのはアメリカのBFグッドリッチ社で、1910年、日本は明治43年のことでした。以来、「タイヤは黒い!」というイメージができあがり、現代人にすり込まれています。
トレッドにはタイヤの顔というべきパターンが刻まれております。こちらはコンチネンタル社さんが業界初で、1904年の事らしいですから、タイヤがまだ黒くなかった頃でしょうかね。タイヤは滑らかで喰い付きの良い舗装路や晴れの日だけ走れば良いというわけにはいきません。
滑りやすい路面でトラクション(駆動力や制動力)を確保し、路面とタイヤに水膜ができてスリップしないように、トレッドパターンにて排水を行なうのです。タイヤのトレッドゴムに求められる性能は、クルマの進化と共に要求も高まります。
■タイヤ性能と燃費性能を両立させる現代のタイヤ
ゴムの特性上、温度が上がると柔らかくなり路面への喰い付きは良くなるんですが、その反面摩耗は早くなる傾向にあります。喰い付きが良いということは抵抗が大きくなるということで、燃費も下がっていきます。
逆に温度が低くなった場合にはゴムは硬くなり喰い付きは悪くなります。路面への喰い付きの良さと燃費向上は相反する性能を要求しているわけです。
これは、昔の一家の大黒柱的存在のお父さんのようにたくさん働いて休みの日は寝て過ごしますよって感じから、無駄な働き方はせず休日には家族サービスを……という世のお父様方へのハードな(?)要求が、現代のタイヤにも求められているようなものです。
そんなお父様方が聖人君子になるには何を与えれば良いかは世界中で模索されているようですが、タイヤの場合ですとシリカというものを加えます。シリカは二酸化ケイ素によって構成される物質で石の細かい粉なんですね。
シリカが入っている製品の代表例がガラス、シリカゲル、光ファイバーっていったところでしょうか。シリカをゴムに混ぜ込むのは化学的にすごく難しい技術なようですが、シリカが入ることにより、転がり抵抗を小さくしながら、ゴムが硬くなるのを抑え路面に密着できるので、雨天時の制動性能は落とさず低燃費なトレッドゴムになるのです。
タイヤの摩耗末期で溝が浅くなっている場合も、新品に比べて排水能力が落ちて路面への密着度は劣るものの、シリカの配合によって硬化しにくくなり、さながらシニアクラスのアスリートのごとく歳を感じさせないモノになっているのではないでしょうか?
タイヤの性能の表現で「コンパウンドが違う」なんて聞いたことあると思いますが、コンパウンドは「混合物・合成物」っていう意味で、各材料を配合する比率のことです。
タイヤのゴムでいうならば硫黄やシリカの量で硬さが変わってきます。具体的な配合はわかりませんが、高速道路等の舗装路主体で低燃費重視の場合と、非舗装路など現場系等では求められる性能は変わってきますので、トレッドパターンに加えて使用するゴムのコンパウンドも変えているようです。
最後にゴムの進化というわけではないのですが、廃タイヤの処理、利用法です。近年では砕いてさまざまな工場の燃料になったり、舗装材、緩衝材、ゴムのシート、あとはDIY等でプランターにしたり、家具、遊具の製作などがあります。
まだ研究段階のようなのですがタイヤで使用した合成ゴムを分解して生ゴムに戻す技術が発見され、近い将来天然ゴム(生ゴム)を再生する日も近いようですよ。以前からタイヤを分解するバクテリアは見つかっていましたが、天然ゴム成分まで痛めてしまい、ゴムを再生するには至らなかったようです。
ところが日本で発見されたシロカイメンタケ、シハイタケは加硫されたタイヤのゴムを「脱硫」することで天然ゴムを痛めることなくリサイクルできるというのです。素晴らしい発見でございます。是非とも早期に実現していただきたいものですね。
以上、タイヤの進化の一部分であるゴムについて、大雑把に紹介してきましたがいかがでしたでしょうか?
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