梅雨入り前だというのに5月28日、29日の週末は真夏日を記録したこともあり、エアコンをガンガンにかけた人も多かったのではないだろうか。
この時期、本格的にエアコンをかけ始める時期だが、スイッチを入れてもブロワーファンが回らない、コンプレッサーから異音がする、拭きだす風が冷えていないといったエアコンのトラブルを発見するケースが多くなってくる。
クーラーガスの補充だけで冷えた風が出てくればいいのだが、そう簡単に直らない場合もある。そこで、エアコンのトラブルの症状別の予兆と対策、どんなところが壊れるといくらかかるのかを徹底解説していこう。
文/高根英幸、写真/AdobeStock(トップ画像=Monika Wisniewska@AdobeStock)
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■夏が来る前にクルマのエアコンチェックを
GWあたりから晴天時には車内の温度が上昇し、陽射しがジリジリと肌を刺激し始める。エアコンによる快適さを実感するのは、この頃あたりだ。
ちなみに今回の梅雨入りは、日本気象協会が5月30日に発表した「梅雨入り予想」によると、九州~関東は「平年より遅い」、九州、四国、中国、近畿。東海地方は6月11日頃、関東甲信は6月12日頃。北陸、東北は「ほぼ平年並み」の6月12日~15日頃となっている。
梅雨に入ってからは、ジメジメとした湿気や濡れた傘や服などの水分によるウインドウの曇りを素早く除去してくれることで、快適かつ安全な走行を手助けしてくれる。しかしながら梅雨が明けて本格的な夏が到来すると、途端にエアコンの利きが悪く感じるようになることもある。
それは陽射しが強くなって室内の温度上昇の勢いが高まることで、エアコンの冷房能力が追い付かなくなってくると、急にエアコンの利きが悪いと感じるようになるのだ。特に最近はクルマの居住空間が大きくなっているので、温室のように車内が陽射しの熱エネルギーを溜め込みやすい。
本当にエアコンの利きが悪くなっているなら、本格的に夏が到来すると車内はとても耐え切れない暑さになってしまう。それが本来の冷房能力で気候変動が暑くさせているのか、エアコンの性能が低下しているのか、この時期に見極めることも大事だ。
オートエアコンなら温度を最低、ファンを最強に操作して、エアコンの冷房を全開に設定して冷房能力をテストしてみよう。ダッシュボードのベンチレーターダクトから冷風が出てくるように設定して、ダクト直前の風を手で触ってみて十分に冷えた風が出ているかチェックしよう。
通常であれば、ダクトから出てくる冷風は15℃から18℃くらいにはなるので、かなり冷たいと感じるはずだ。走行してエンジン回転が上昇してコンプレッサーを、走行風でコンデンサーが冷やされなければ冷たい風が出てこない、というのであれば、それは冷房能力が低下している可能性が高い。
冷えが悪くなっていると感じたら、そのままにしておくとますます冷えなくなっていくだけなので、早めに対策することが大事だ。
昔はリキッドタンク(レシーバータンク、リザーバーとも呼ばれる)に液化された冷媒が確認できるサイトグラスというガラス窓が組み込まれていて、そこで冷媒の充填量をチェックできた。
しかし最近のクルマはエアコンシステムの信頼性向上、コストダウン、軽量化などの理由によりサイトグラスを備えていないクルマが多い。
そうなるとエアコンシステムの好不調は、風量と冷え具合を体感でしか判断できない。整備工場に行っても冷媒の圧力によって充填量を推測する程度だから、体感以上に確実にエアコンシステムを点検しようと思ってもなかなか難しいのが実情だ。
■エアコンシステムの構造を理解することも大事
エアコンはたくさんの部品で構成されているが壊れる部品、冷房能力を低下させる部品はある程度限られてくる。それはコンプレッサー、コンデンサー、配管、ファン、エバポレーター、ファンレジスター、フィルターなどだ。
トラブルとしては冷えない、風が出ない弱い、風が臭い、異音がするといったもので、それぞれの症状でも原因は必ずしも1つではないところが、エアコンのトラブルを複雑なものにしている。
タバコを吸わない人であれば、車内は禁煙でエアコンフィルターを備えていれば、カビ臭い、ホコリ臭いといった臭いは起こりくいのだが、逆に僅かな臭いでも気になってしまう可能性もある。
このエアコンフィルターの詰まりも風量を落としてしまう。定期的に清掃や新品への交換をすることで風量を維持することができる。特に最近はコロナ対策で外気導入を多用している人が多く、内気循環でも窓を開けて室内を換気しているのでフィルターが汚れやすい。
交換費用はショップなどでは工賃込みで約4000~6000円。ただし、フィルターそのものは1000~2000円で手に入るから、充分自分で交換できるのでトライしてみるのもよいだろう。
フィルターが詰まって風量が落ちた状態で使っているとファンモーターにも負担がかかるし、ファンレジスターの冷却も低下してしまう。ファンレジスターはその名の通りファンに流れる電流の抵抗となるもので、ファンの強さを変える部品だ。
これはファンの風で冷却されながら作動しており、冷却が不足すると壊れやすくなる。ファンレジスターが壊れると、風量の調整が効かなくなったり、ファンが回らなくなったり回りっぱなしになるなどの症状が出る。
車種によってはダッシュボードを脱着しての交換となるため、工賃が高くなってしまうのでフィルターの目詰まりには気を付けたい。
フィルターは消耗品だから交換すればいいとしても、その他のエアコンシステムは、本来メンテナンスは必要なく、使い続けることができるものだ。なぜなら家庭用のエアコンや冷蔵庫はフィルターの掃除以外のメンテナンスを必要とせず、10年くらいは使い続けることができるではないか。
冷媒であるクーラーガスが抜けて圧力が下がってしまっていると、コンプレッサーが圧縮しようにもなかなか圧力が上がり切らず、気化熱で十分に冷やすことができなくなってしまう。これが、冷房が冷えなくなる主な原因だ。
クーラーガスが抜けてしまうのはコンプレッサーやコンデンサー、配管などのシールの劣化や振動や圧力による破損が原因であることが多い。コンデンサーが跳ね石などで破損してしまうこともある。
そんな状態でもクーラーガスを充填してやれば一時的には冷房能力が復活するが、ガス漏れが直っていないのであれば、やがてまた利きが悪い状態に戻ってしまうことになる。スローパンクしているタイヤに空気を入れて乗っているようなものだ。
コンプレッサーオイルにリークテスト(漏れる箇所を調べる)のための蛍光剤が添加されているものもある。わずか漏れているのであれば、こうしたケミカルを充填してしばらく乗って原因を追及して、修理費用を見積もりしてもらい、修理するかクルマを買い替えるか判断してもいいだろう。
専用のガス回収機でクルマからエアコンガスを回収し、不純物を取り除き、回収したガス量と規定量の差分のガス、エアコンオイルを規定量加え、キレイになったエアコンガスをクルマに充填する。料金はHFC-134a(=R-134a)では、約8000~1万円(車種によって異なる)となっている。
この2、3年以内に登場した新車は、新規格のエアコンガスHFO-1234yf(=R-1234yf)対応に切り替わっている(車種によって異なる)。
国内では、2015年4月に施行されたフロン排出抑制法にて自動車用エアコンについて定められた、「2023年までにGWP(地球温暖化係数)を150以下とする低GWP化目標の達成」に向け、このR-1234yfへの移行が進んでいる。
このR-1234yfは、R-134a(=HFC-134aのGWPは1430)に比べ、GWPが1未満と非常に低く、GWPを99.9%低減するという。
またR-1234yfの大気寿命はわずか11日と、R-134aの13年、CO2の500年以上に比べ非常に低く、分解に数十年を要するHFC(代替フロン)やCFC(特定フロン、オゾン層破壊物質)とは異なり、R-1234yfは大気中に滞留しないという。
ただし、R-1234yfの200g缶1本1万円前後もする。R-1234yfの工賃込みのガス補充料金はR134aに比べ、3万~5万円程度と非常に高価となっている(車種によって異なる)。
オートエアコンは便利な機能だが、操作パネルや制御系が壊れると結構な修理代がかかることもある。そういった意味では最近のクルマは修理するより、使い捨てに近い存在になってきてしまっているようだ。
以下エアコン関連の修理費用の目安を紹介しておこう。
コンプレッサーが焼き付いてしまった場合、冷媒とともに削られ落ちた金属カスなどの不純物が冷却回路内の隅々までに回ってしまうため、冷却回路を構成するパーツを総入れ替えする必要が出てくる。車種にもよるが、約10万~30万円という高額の修理代がかかることも覚悟しておきたい。
エアコンが臭かったり、風が弱くなった場合はエバポレーターが原因。エキスパンションバルブで低温・低圧にされた霧状冷媒を大量に気化し、ファンにより送られる車室内の暖かい空気がエバポレーターを通過することによって冷却し、室内を冷房化する。
暖かい空気がエバポレーターフィンに当たり、露点温度以下に冷却されると空気中の水分が凝縮し、エバポレーターフィンに水滴が付着する。この結果、車室内の湿気をとることができる。
このエバポレーターが壊れた場合、交換費用は約5万~10万円。洗浄も行ってくれるが1回1万円以上かかる。小さい子供がいて、カビや細菌が気になる人はフィルター交換とともに年に2回のエバポレーターの洗浄をお薦めする。
●主なエアコン関連部品の修理費用
・エアコンガス補充/約8000~1万円(R-134a)、約3万~5万円(R-1234yf) ・エアコンガス漏れ修理/約2万~3万円
・エアコン・コンプレッサー交換/約5万~10万円
・ファン(ブロワー)モーター交換/約2万~5万円
・エバポレーター交換/約5万~10万円
・エキスパンションバルブ交換/約2万円
・エアコンフィルター交換/約2000~5000円(年1回交換)
・サーモスタット交換/約1万円
※車種によって異なるため、あくまでも目安としてください
■エアコンの利きを改善する方法もある
そもそもエアコンの冷房性能が高くないクルマもある。そういうクルマは近年の暑さと、クルマ全体の劣化により、冷房能力が低下している場合も珍しくない。クルマの冷房性能を高めたり、復活させる工夫をすることも、実際の冷房能力を高めることになる。
エアコン添加剤はコンプレッサー内部の潤滑や密閉を高めるオイルと摩擦を抑える潤滑剤、さらに圧送するためのガスとして冷媒が使われている。アイドリングで冷房を作動し、コンプレッサーの作動音が大きくなったと感じているなら、こうした添加剤でコンプレッサーを保護してやるのも効果的だ。
本来コンプレッサーオイルはエアコンシステムの組み付け時にガスと一緒に充填するのが一般的だが、ガスが減っていない、冷房が普通に利くクルマでも長年使っているとコンプレッサーオイルが減ってコンプレッサーが焼き付いてしまうことがあるのだ。
ただし車検毎にオイル補充の必要性を謳う業者もいるが、あまりオイルが多くてもコンプレッサーにダメージを与えることになるから、意味もなく定期的に充填するようなことは避けたい。
ウインドウフィルムを貼って車内に降り注ぐ陽射しを和らげることも、冷房性能を高めることにつながる。フロントドアのサイドウインドウは透過率75%を確保していなければならないが、透明でUVや熱線をカットできるフィルムもある。
可視光線にも熱エネルギーはあるので、暑さは完全には解消できないが、ジリジリと肌を焼く刺激は緩和されるので、お勧めだ。
クーラーガスを冷やすコンデンサーの汚れをキレイにして風通しを良くする、という対策もある。ただし強い水圧をかけてしまうとコンデンサーのフィンが潰れてしまったり、コンデンサーからのガス漏れを誘発することにつながるから、掃除は丁寧に繊細に行なってやろう。
渋滞を避けることも、エアコンの利きを高める手段だ。ドライブルートを工夫したり、走行する時間帯を調整することで渋滞を避ければ、燃費の改善にもつながるだろう。
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投稿 エアコン効かない! その時どうする? エアコン故障の予兆と対策とは は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。