米電気自動車大手テスラのイーロン・マスクCEO(最高経営責任者)が、リモートワークを続ける社員を解雇する意向であると、1日、ブルームバーグが伝えた。
報道によると、マスク氏は社内メールで従業員へ「テスラでは全員が週に最低40時間オフィスで勤務することが義務付けられる」と通告。さらに、「出社しない場合は退社したものと見なす。役職が上であればあるほど、その存在が目に見えるようにしなければならない」と通知したという。
日本でもオフィス回帰への取り組み
日本でも、オフィスへの回帰を促す取り組みが行われている。三菱地所は「常盤橋タワー」(東京・大手町)、三井不動産は「東京ミッドタウン八重洲」(東京・八重洲)と、巨大オフィスビルのプロジェクトを進めている。常盤橋タワーは昨年7月に竣工、東京ミッドタウン八重洲は今年8月に竣工予定だ。
この2つのオフィスビルには、リモートワークが普及する中、あえて出社したくなるようなさまざまな仕掛けが施されているという。折しも日経電子版はこの日朝、この取り組みを『三菱地所と三井不動産、「出社したくなる」仕掛け』という見出しの記事を掲載した。
今後、三菱地所と三井不動産が目論むように、都心部のオフィスビルへの回帰は進んでいくのか。
不動産会社幹部「大規模なオフィスは必要なくなる」
オフィスビルの管理・運営を手掛ける大手不動産会社の幹部は、今後のオフィスビル市場を次のように展望する。
「今後は、大規模なオフィスは必要なくなるのではないでしょうか。本社機能そのものが必要なくなるという会社はほとんどないでしょうが、本社機能の規模を大幅縮小あるいは、郊外や地方に移転するという会社も続々と出てきています。特にIT企業などの一部業種では、テレワークでも問題なく仕事が進むことがこの数年で立証されました。わざわざ都心の一等地に広いスペースを借りる必要がないことに気が付いた経営者が多いのでしょう。それに、オフィスの賃料に高額を支払うくらいなら、その分を従業員に還元したいという経営者も少なくありません」
この不動産会社幹部の指摘は、実際の数字でも見てとれる。オフィスビル仲介大手の三幸エステートとニッセイ基礎研究所の調査によると、コロナ禍に見舞われたこの2年数カ月の間で、オフィスビルの成約賃料は低下し、空室率は上昇している。
コロナが流行しだす直前の2020年初頭、Aクラスビルの賃料は坪単価4万1392円だったが、2022年には3万696円と坪単価にして1万円以上も下がっている。さらに、賃料が下がっているにも関わらず、空室率は上昇している。コロナ前のAクラスビルの空室率は0.8%程度で推移していたが、2022年時点では3.2%まで上昇した。
なお、Aクラスビルとは、三幸エステートの定義では、エリア、延床面積(1万坪以上)、基準階床面積(300坪以上)、築年数(15年以内)などのガイドラインの基準を満たすビルのことを指す。要は、都内の一等地に立つ、大企業が入居するような巨大ビルのことだ。
LIXILはオフィス面積9割削減!
こうした巨大ビルが賃料は下がっているにも関わらず、空室率が上昇しているということは、不動産業界だけではなく、周辺へ与える影響も大きい。まず、オフィスビルに勤務する人たちのランチや飲み会の需要を当て込んだ飲食店への影響だ。オフィスビルに勤務する人が減れば、そうした需要も当然、減る。
住宅設備大手のLIXILは、今年8月に本社を現在の「WINGビル」(東京都江東区)から、「住友不動産 大崎ガーデンタワー」(東京都品川区)に移転することに合わせて、オフィス面積を9割削減するという。
前出の不動産会社幹部は「LIXILのような企業はこれからも増えていくでしょうね。そうすると、オフィス街に近い繁華街の飲食店のテナント賃料も下がるでしょうし、周辺のマンション価格にも影響していきます。今年の東京の地価上昇率でトップ3(商業地)は、中野区、杉並区、荒川区と都心からやや離れたエリアでした。後から振り返った時に、“コロナが東京の景色が一変したことのきっかけだった”となるかもしれません」と話す。
一方で、コロナによるオフィスビル賃料の低下と空室率の上昇は、リーマンショック時と比べるとまだ緩やかとのデータもある。ただ、リーマンショック時と今回で大きく違うことに、テレワークの普及がある。テレワークが普及している中、都心のオフィスビルへの回帰は進んでいくか、それとも、都心のオフィスビルから企業が撤退する流れが強まっていくか。