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 トヨタというと、ソツのないクルマ造りで広くユーザーに支持される車種を多くラインナップしていることもあり、退屈なクルマが多いとか、無難なクルマが多いという見方をされることも少なくない。

 しかし、なかには世界初の量産ハイブリッドカーとなったプリウスをリリースしてみたり、未開拓のジャンルにいきなり新車種を投入したりと思いきった動きを見せることも珍しくない。

 とはいえそんなモデルがすべて世の中に受け入れられたワケはなく、一世代でヒッソリと消えてしまった不遇のクルマも少なからず存在している。今回はそんな後継車種が存在しなかったトヨタ車を振り返ってみよう。

文/小鮒康一、写真/トヨタ、アストンマーティン


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中途半端な大きさが災いしたデリボーイ(1989年7月登場)

バンライフブームなどもあり、デリボーイは中古市場で人気

 小口の集配送に特化した「日本初の大衆クラスのウォークスルーバン」として1989年7月にリリースされたデリボーイ。トヨタとしてはすでに同様のコンセプトを持つクイックデリバリーをリリースしていたが、小型商用車(4ナンバー)として登録できるモデルとして登場した。

 メカニズムの多くは同社の1トンクラスのトラックに使われていた部品を流用して作られており、ボディ側面のフラットなパネルは店舗のイメージに合わせたロゴやイラスト、ペイントを施す前提となっていた。

 その特徴的なルックスによって現在でも趣味のトランポとして根強い人気があるデリボーイだが、現役時代は小口配送であれば軽ワンボックスバンが、フルに荷物を積むのでればタウンエースバンが存在していたこともあり、後継車種が登場することなく姿を消した。

奇抜セリカの保険的存在と呼ばれたカレン(1994年1月登場)

奇抜なルックスとなったセリカの薄味版として登場したカレン

 1993年10月に登場した6代目セリカの兄弟車として翌年1月にデビューしたカレン。6代目セリカが先代までのリトラクタブルヘッドライトから一転、個性強めの丸目4灯モデルとなったことで、大人しい顔つきのカレンが用意されたとも言われている。

 そのため、セリカに設定されていたホッテストモデル「GT-FOUR」は用意されず、スポーツツインカムの3S-GE型エンジンを搭載するモデルが最もホットな仕様となっていたが、カレンはマイルドな1.8Lエンジンを搭載したグレードが売れ筋だったようだ。

 なお、カレンは顔つきだけでなくリアセクションもセリカとは異なっており、独立したトランクを持つノッチバッククーペとなっている。フロントマスクの違いだけでなく、ハッチバックとノッチバックで差別化を図って市場調査をしていたとすれば、トヨタ恐るべしと言わざるを得ない。

カレンのベースとなった、6代目セリカのノッチバッククーペ(北米仕様)

小さな高級車路線を推し進めたブレビス(2001年6月登場)

プログレをベースにセルシオ似のエクステリアを纏って若いユーザーを狙ったブレビスだったが、残念ながらヒット車種とはならなかった

 ブレビスは1998年に登場したプログレの兄弟車。明らかに保守的だったデザインのプログレに対し、ブレビスは当時のセルシオにも似たデザインとなっており「アクティブ・エレガンス」をキャッチコピーに若い世代をターゲットとしていた。

 プラットフォームやパワートレインこそプログレと共通であったものの、全長や全幅はプログレよりも大型化されており、インパネに至ってはプログレの面影は全くなく、オプティトロンメーターやセンター部分に埋め込まれたエレクトロマルチビジョン、乗用車としては世界初となる純正5.1ch対応のDVDシステムなどを備える先進的なものになっていた。

 しかしながら当時のトヨタの中~大型セダンにはセルシオを筆頭に、クラウン、アリスト、マークII、カムリ、プロナードと複数の車種が存在しており、明確なポジションを確保できることなくプログレと共に姿を消すこととなってしまった。

こちらがブレビスのベースとなったプログレ。小さな高級車という考え方は決して悪くなかったが、保守的過ぎたのが仇となったか?

マーケティング先行の色が強かったiQ(2008年10月登場)

マイクロカーとしてリリースされたiQにはさまざまな仕様や限定車などが追加された

 ドイツのスマートに代表されるマイクロカーのトヨタ版として2007年にコンセプトモデルを発表し、2008年から販売を開始したのがiQだ。

 1LエンジンとCVTという組み合わせのパワートレインと、全長3m弱と軽自動車よりも短い全長ながら4名乗車とした(実質的には3+1で、のちに2シーターも追加)パッケージングで、小さくても上質な車両を求めるユーザーをターゲットとして本革シートを備える「レザーパッケージ」なども用意されていた。

 しかしながら、価格面や使い勝手だけでみるとヴィッツやパッソの方が優れているため、一部のコアユーザー以外にはなかなか評価されないという状態が続いた。メーカー側も1.3Lエンジンや6速MTの追加、GAZOO Racingが開発を手掛けたチューニングモデルの「GRMN」、さらにパワートレインに手を加えて過給機をプラスした「GRMNスーパーチャージャー」などを限定でリリース。精力的にテコ入れをしていたが、ベース車の人気につながることはなかった。

 車両自体はあのアストンマーティンが(環境性能のためとはいえ)認め、シグネットというモデルのベースになるほどであったが、評価が高いからといって売れるわけでないという残念な一例となってしまったのである。

ルーフ、ドア、リアフェンダー以外は専用の外板を持つアストンマーティン シグネット。500万円弱の価格に見合った仕上がりとなっていた

欧州勢に果敢に挑んだブレイド(2006年12月登場)

「乗るといいんだけどね~」と言われる代名詞となってしまったブレイド

 実用車のイメージの強いハッチバックにプレミアム感をプラスし、「ショートプレミアム」というキャッチコピーで登場したブレイド。ある意味では「小さな高級車」のプログレの後継モデルとも言える1台だ。

 当初は2.4Lの直列4気筒エンジンを搭載するモデルのみだったが、2007年8月には280PSを発生するV6 3.5Lエンジンを搭載した「ブレイドマスター」も追加。V6、3.2Lエンジンを搭載したフォルクスワーゲンのゴルフ「R32」を意識していたのだろう。

 しかし、当のフォルクスワーゲンは2008年にリリースしたゴルフの6代目モデルからダウンサイジングターボを投入。ブレイド自体も1.5Lクラスのオーリスと車体を共有していたことでプレミアム感が薄く、販売は低迷。トヨタには珍しいパターンと言えるだろう。

 このようにあのトヨタでさえ、大ヒットにつながらなかったモデルは珍しくなく、理由もさまざま。チャレンジングなモデルもあれば、テスト的に販売したものもあり、この辺りはさすがトヨタといった余裕を感じなくもないが、なんにせよトヨタのクルマも深掘りしていけば新たな発見がある、ということがおわかりいただけたのではないだろうか。

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