バイデン米大統領は23日、日本で行われた日米首脳会談後の共同記者会見で、中国の台湾侵攻時に米国は軍事的関与を行うことを明確に示しました。これは台湾で大きな反響を呼び、台湾メディアを通じて大きく報じられました。今回はバイデン発言に関して、台湾の反応をお伝えします。
■バイデン米大統領の強烈的承諾
東京でのバイデン米大統領の発言はテレビのニュースチャンネルでは速報として報じられ、各社のニュース番組ではバイデン氏の回答を「強烈的承諾 (強い約束)」(台視新聞2022年5月23日)、米国の軍事力による台湾防衛を「意外表態 (予想できない表明)」(非凡新聞2022年5月23日)であったとし、会見の模様を交えトップニュースとして繰り返し放送、また台湾各紙は翌24日付の一面トップでバイデン氏の発言を伝えました。
中国時報はバイデン氏の発言が「長期保持的戰略模糊政策有出入 (長く保たれてきた(米国の台湾有事に対する)あいまい戦略に相違が表れた)」(中国時報)と指摘、自由時報は社説にて、今回の発言を米国の対中国戦略の慎重な方向転換としながら同時に米国が、中国の台湾に対する武力侵攻の可能性を「仍在持續上升 (依然上昇している)」と看做しているのではとしています(自由時報)。
バイデン氏の明言には台湾の人々も反応を示しています。Googleトレンドでは「拜登 (バイデン)」の検索ワード人気度が5月23日午後2時頃から急上昇、同日の急上昇ワードの第7位となりました。台湾ネッユーザーからは多くのコメントが寄せられています。
台美堅如磐石 (台米関係に揺るぎはない)
可信賴的朋友 (信頼できる友だ)
以上のように歓迎と高評価の声もあるのですが、大多数は冷めた反応です。
這種承諾看看就好 (この種の承諾は真に受けない方がいい)
聽一半就好 (話半分で聞いたらいいよ)
簽個美台安保條約來看看 (まずは米台安保条約を結んでみよう)
拜登總統每次一講到台灣這個話題,都要被白宮校正回歸 (バイデン大統領は毎回台湾に関してこの話題を出すが、いつもホワイトハウスに修正されている)
台湾の既存メディアとの温度差が感じられ、興味深いです。ただ、そうした声に反発する向きもありました。
就算可能是謊言,至少也是正面回答 (デタラメだとしても、前向きな回答ではあると、バイデン氏の回答を一歩前進)と評価する意見もありました。
■バイデン発言への揺れる思い
米国大統領の発言については大事な国防に関することのため、あれこれと意見の表明があるのは当然のことでしょう。そうした声からは一歩引いて、平和を求める声、あるいはウクライナ情勢を意識し台湾が軍事面で利用されることを杞憂するコメントも目につきました。
台灣跟大陸本來可以和平共榮。美國人又來搧動戰爭 (台湾と中国は共存できるはずだ。米国人はまた戦争が始まるよう扇動するのか)
我們要的是和平 不是武力解決 (我々が求めるのは平和であり武力による解決ではない)
但願是真正意義的軍事介入,而不是像烏克蘭情況一樣,出兵是出兵了 (本気で軍事介入するなら、ウクライナに対するようにではなく、派兵するべきだ)
美國若是出兵對台灣就是真心的,若只是出武器就只是利用台灣削弱中國 (米国が若し派兵するのなら正に台湾に対する本心なのだろう、しかし武器を提供するだけなら台湾を利用して中国の国力を削るだけになる)
なお台湾民意基金会が定期的に行っているアンケート調査に「中国の武力侵攻時に米国が派兵するか」という項目があるのですが、昨年10月の調査では「信じる」が65.0%、「信じない」が28.5%でした。
ところが4月の最新調査結果では「信じる」が36.3%、これに対し「信じない」は53.8%と逆転、「信じる」は昨年より約28%下落、「信じない」が25.3%も高くなりました(風傳媒 2022年4月26日)。
全体を通して見れば、バイデン氏の「台湾有事の軍事的関与」言及について、台湾メディアの盛り上がりとは裏腹に、多くの人々は冷ややかな態度で受け入れていると言っていいでしょう。それはウクライナ侵攻に対する米国の対応(武器の支援中心、NATO軍の不介入)への落胆と失望が表れていたのかもしれません。
■日本の派兵を求める台湾人
最後に台湾有事の際の日本の関与についてです。前出の台湾民意基金会によるアンケート項目には「中国の武力侵攻時に日本が派兵するか」という項目がありました。3月の調査では「信じる」が43.1%、「信じない」は48.6%でした。
日本は派兵(自衛隊の派遣)しないであろうという予想が、派兵すると考える人より多いのですが、同月の「米国が派兵するか」を「信じる」の34.5%を上回っているのには驚かされます。
遠い大国の歯がゆい対応より、隣国の援軍を願う気持ちが表れているようで興味深い台湾人の本音と言えそうです(風傳媒 2022年3月22日)。