<p>『ドラゴンクエスト』36周年で思うこと──保守性と革新性を両立させる離れ業は、堀井雄二が高度な批評性を持っているから</p><p>『ドラゴンクエスト』が登場したとき 「RPGのわかりづらさ」を解きほぐしたのは やはり堀井雄二氏ら作り手だ……! HPやEXPが画面上に登場したとき、筆者にとって『ドラクエ』はよくわからないゲームだった──いかに本シリーズは国民にRPGを“わからせた”のか #ドラクエの日</p><p>1986年の5月27日に『ドラゴンクエスト』が発売され、今年で36年という月日が経とうとしている。</p><p>においては、ついに勇者は誰でも転職可能な職業のひとつになってしまう。魔王もまた複数の魔王が存在するという「勇者と魔王」の絶対性、唯一無二性が失われた世界が描かれる。 (画像:編集部撮影) (画像:編集部撮影) そしてこれら天空三作品が本当にすごいなと私が思うのは、このようなかつて確立した「勇者と魔王の物語」をこれまでとは異なる視点、異なる価値観で描くことで従来とは大きく変わった印象を受けるような根本的な変更を加えながら、ゲームの遊び味自体はずっと変わらず『ドラゴンクエスト』の味を維持し続けた点にある。これまで通り、序盤でやくそうやどくけしそうを買って、スライムと戦い、お金を貯めて買った武器(はがねのつるぎだったりブーメランだったり)を装備して強くなった自分に心躍らせるというゲーム体験部分は変わらない味をキープし、基本的には魔王に相当するであろうラスボスを倒すことを目標に冒険を続けるという基本構造を維持しながら、そこから受ける印象や感触は大きく異なったものになるように手を加えるというあまりに洗練された鮮やかな手腕がそこにはある。 なぜ『ドラゴンクエスト』はそのような保守性と革新性を両立させるかのような離れ業をやってのけられるのだろう。それは堀井雄二という人が高度な批評性を持っている人だからではないかと私は考えている。批評というものは昨今のネットではとかく嫌われがちなものだが、『ウィザードリィ』や『ウルティマ』の良いとこどりをするためには、それらの悪いところもまた適切に認識する必要がある。そして、かつての自分が成し遂げた成果を解体し、再構築するために必要なのもそれらを丁寧かつ冷徹に腑分けできる批評眼が絶対に必要だ。彼が「ファミコン神拳」という連載をしていたのは、たまたま『ドラゴンクエスト』を作った人がゲームの記事を書いていたということではなく、当時もっとも競争の激しかった「週刊少年ジャンプ」誌上でも高い人気を獲得出来てしまうほどの筆力と確かな批評眼を持ったライターだったからこそ、『ドラゴンクエスト』が作れたのである。 天空三作品が発売されて以降、『ドラゴンクエスト』シリーズの本編作品は新作が発売される間隔がかなり大きく空くようになった。なぜ『ドラゴンクエスト』の本編作品はなかなか発売されないようになったのだろう。それは、ここまで述べてきたように、基本のシステムや遊び味に大きく変更を加えず、だがそこで描かれる主題や描き方は作品ごとに大きく変化を加える『ドラゴンクエスト』というゲームは我々が想定する以上に作るのが大変なのではないだろうか。 どちらかと言えば初期三部作や天空三作品が比較的ハイペースでリリースされたことのほうが奇跡的なことであり、我々にとっては幸福なことだったのだと思う。 『ドラゴンクエスト』というIPが誕生し、36年という長きにわたって多くのユーザーを楽しませ、愛され続けてきたということは本当に素晴らしいことだ。まだまだ生まれて間もないゲームというジャンルにも厚みのある歴史が醸成されようとしている事実をしみじみと実感させられる。 常に変わらない遊び味でありながら、根底の部分においては常に新しいチャレンジを行い、結果的には常に新鮮なゲーム体験を提供してきたこのシリーズは今後もその姿勢を変えることはないだろうし、その高い志を失わない限りこれからも高い人気を維持し続けることだろう。私もひとりのゲーマーとして今後もナンバリングの新作や派生タイトルの発売を楽しみにしようと思う。 しかし、一応ゲームの作り手の端くれでもある私はこのようなことも思う。『ドラゴンクエスト』がその立ち上げにおいて、あまりに巧みにジャンプや他のメディアを越境しながら、まだまだ馴染みの薄かったゲームジャンルであるRPGを国民的なヒット作にまで育てあげたように、新しい時代の『ドラゴンクエスト』は生まれないのだろうかと。 今回、改めて自分の個人的な記憶から『ドラゴンクエスト』の成り立ちを振り返ってみたのは、このゲームが如何に巧みにメディアとしてふるまい、何も知らない田舎の子どもを見事に夢中にさせたのかを改めて考えてみたかったからである。大人の企みにまんまと踊らされたと言えば全くその通りなのだが、本当に得難く貴重な体験を幼少期にさせてもらったことには感謝の気持ちしかない。作り手としてはまだまだ足元にも及ばないものの私なりの『ドラゴンクエスト』を作れるように今後も頑張ろうと思うばかりである。 あらためて『ドラゴンクエスト』シリーズ36周年おめでとうございます。</p>