大雪による交通障害のニュースは毎年のように耳にするし、災害が激甚化するなか、道路上で被災するリスクは年々増している。とはいえ日本の物流を支えるトラックは、雪でも豪雨でも簡単に休むわけにはいかない。
そんな中、いつもはトラックに搭載し災害時には30人分の防災用品を周囲に配布できるという「シェアする防災セット」が発売された。メーカーは「日本全国の道路を走るトラックだからこその社会貢献」とする。
道路上での立往生が発生した際に、「トラックが積み荷を周囲に配っていた」という話題がときどきあるが、それを決定できるのはドライバーではなく、荷主だ。トラック用の「自助+共助」のための備えは、トラックドライバーの願いでもある。
文・写真/トラックマガジン「フルロード」編集部、画像/ファシル株式会社
トラックに積んで周囲とシェアする防災セット
防災用品の企画・製造・販売を行なっているファシル株式会社が「シェアする防災セット」を発表した。普段はトラックに搭載し、大雪による立往生などが発生した際には、トラックのドライバーだけでなく周囲にも防災用品を配布できるというものだ。
東京ビッグサイトで開催された「オフィス防災EXPO」で展示され、2022年5月11日から販売を開始している。
シェアする防災セットは、必要最低限の防災用品30人分が入った防災セットで、普段はトラックの助手席や寝台に搭載する。セットの内容は自動車メーカー6社の純正車載用防災セットを手がける同社が防災用品を厳選し、限られたスペースへの設置を考慮したサイズ感と、丈夫な段ボールを採用した。
「ベーシックタイプ」と「ライトタイプ」の2種類で、ベーシックタイプのセット内容は、使い捨て携帯トイレ(大小兼用)、同(小専用)、静音アルミポンチョ、N95マスク、長期保存用カイロ、備蓄用氷砂糖、災害時お役立ちカードの7点。段ボール箱のサイズは310×390×220mmで、重量は約7.2kgだ。
より小型のライトタイプは、使い捨て携帯トイレ(大小兼用)、同(ポンチョ付き/小専用)、N95マスク、長期保存用カイロ、備蓄用氷砂糖、災害時お役立ちカードの6点。段ボール箱のサイズは310×390×190mmで、重量は約5.8kgとなっている。
交換の目安はどちらも5年で、両タイプとも持ち運び用コットンバッグ2枚と、防災用品搭載車ステッカーが付属する。ステッカーはトラックのリアなどに貼って防災用品を搭載していることを周知するためのもの。
トラックだからできる社会貢献
シェアする防災セットの導入イメージとしてはトラックに常備するほか、緊急・救急輸送に出動する場合や、大雪などの天候不良が予想される地域へ向かう場合に携行することも想定している。
ファシルは「日本全国を走り続けているトラックだからこそ、いつどこで何が起こるかわからない今の時代に、だれかの役に立てるかもしれない。物流業界としてできる社会貢献のひとつのカタチです」とする。
大雪による立往生のほか、大地震、豪雨・洪水等による冠水、事故渋滞やトンネル火災など道路上でのトラブルは様々だ。自分自身のための備えはもちろんとして、周囲の困っている人々へも防災用品を分け合いたい……、そう思っているトラックドライバーはけっこう多い。
トラックマガジン「フルロード」には、実際に立往生を経験したドライバーからトラックに非常用物資を常備しておきたいという意見が寄せられている。最後にフルロード第40号(2021年3月発売)から、長距離トラックドライバー・DKさんの話を紹介したい。
立往生を経験したトラックドライバーの想い
平成26年2月14日、東日本を中心に記録的大雪となり、東名高速道路でも長時間の通行止めとなった。私の記憶をたどると、この日の午後1時頃、愛知県小牧市で荷物を積み込み、翌朝、埼玉県加須市に納品する予定だった。
通常は小牧東インターから中津川インターまで高速道路を利用し、国道19号線、254号線などを経て運行する。しかし、この日は大雪の予報が発出されており、これを警戒して一目散に小牧インターから東名高速を経て行くことにした。
まだ明るい時間に日本平パーキングにて休憩した。普段は雪になりにくいこの辺りでも、雪がちらついている。この先の交通状況も鑑みて食料を買おうとしたが、売店にパンやおにぎりは無く、スナック菓子と魚肉ソーセージを買った。
一刻も早く御殿場を通り過ぎたかったが、いよいよ降雪は激しくなり、裾野インターを過ぎ、東名裾野バス停付近で完全に止まってしまった。いずれ動くのを待つしかないと足を上げたら、ちょうど24時間、丸一日を車内に閉じ込められてしまった。
後で知った話だが、この時の立往生で悲しいニュースがあった。同じ通行止めの最中に、母親が運転する軽自動車に乗っていた乳児が脱水症状で緊急搬送されたという。
それ以上詳しくは知らないが、周辺にはたくさんのトラックがいたはずだ。トラックの運転手は多少なりとも水や食料を備えていることが多い。幼い子の飲み水がないと、誰かに一声かけてもらえれば、この子の脱水症状は避けられたかも知れない。
いっぽう、令和2年12月6日、関越道上り線で大雪による通行止めが発生した際は、開通まで40時間を要した。この通行止めの中で、製菓を運んでいたトラックが、積み荷であるせんべいなどを周囲の人に提供したことが話題となった。
こうした大雪等の災害通行止めにあった際、トラックは積み荷である食料を提供できるのか? 言うまでもなく、積み荷は荷主のものだ。すなわち、運転手に決定権は無く、その判断は最終的には荷主次第ということになる。
では運転手や運送会社は、災害通行止めを目の前にして、荷主の判断を待つしかすべがないのだろうか?
トラックに非常用食料を常備してはどうだろう。大雪を始め、交通事故、土砂災害、震災などが通行止めの原因となる。道路を職場としているトラックはこうした災害に遭遇しやすい。しかし多くの場合、通行止めに巻き込まれるだけで、トラック自体が破壊的被害を受けることは少ない。
通行止めとなった道路には、トラックがいる。そのトラックに非常用食料が用意されているとしたら。
例えば50Lくらいのプラスチックケースなら、非常用食料20食、水10L、携帯トイレなどを用意できる。車格にもよるが、トラックは荷物を積むスペースのほかに、まだ余裕があることが多い。荷物の隙間、助手席、風防、シャーシ横など、50L程度のケースなら搭載するスペースはいくらでもある。
運送会社は、運転手の生命線としてある程度の非常用物資を用意する。それを「このトラックには非常用物資が搭載されています」などとステッカー等でアピールすれば、運送会社のコマーシャルにもなるのではないだろうか。
それが日本中のトラックに備えられ、多くの人がそのことを認知すれば、それは今後発生しうる大災害に対し、国民みんなの備蓄となり、また運送業界全体の社会的地位向上にも繋がるのではないだろうか。
物流は日本の血液であり、トラックはその9割を担っているという。日本全国津々浦々、どこにでもトラックはいるのだから。
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