Bugatti Chiron Super Sport
定期的に行われているダイナモテスト
「ブガッティ シロン スーパースポーツ」は、最高出力1600ps、最大トルク1600Nm、最高速度440km/hという強烈なスペックを誇る、世界で最もパワフルかつ最速の市販ハイパースポーツ。2019年夏には市販車両最速記録の304.773mph(490.484km/h)を樹立し、2022年からデリバリーが開始されている。
ブガッティは、生産開始後も車両の継続的な開発と各部システムの最適化を目的に、極限状態におけるテストを定期的に実施。最高出力と最高速度のチェックには、高性能全輪シングルローラー・シャシーダイナモメーターが導入されている。
このシステムでは、2基の小型ローラー間にホイールを設置するのではなく、1基の大型ローラー上を走行。タッチポイントがひとつしかないため、ホイールの転がり挙動が実際の路面に近いという利点がある。2基のローラー型ダイナモメーターよりも、ホイールのスリップや性能の低下を抑えることができる。
また、摩擦によるタイヤの発熱が抑えられることで、400km/hを超える高速走行テストの実施も可能になった。420km/hを超えるスピード下において、タイヤは1秒間に50回転以上を記録する。これは、重力加速度の約4000倍もの負荷を足まわりにかけることになり、シロン スーパースポーツがフルスピードで走行すると、バルブ重量だけでも18.3kgから約55kgへと増加するという。
実際の路面に近い状況でテスト可能なシングルローラー
今回の高性能シャシーダイナモメーターでのテストでは、最高出力や最高速度だけでなく、負荷をかけた状態のシミュレーション、加速度測定、排ガス測定、燃費測定などのテストも実施。ブガッティのエンジン開発エンジニアを務めるミシェル・ゲリケは、今回のテスト目的について次のように説明する。
「高性能全輪シングルローラー・シャシーダイナモメーターでは、すべてのコンポーネントを実際の走行条件下で、公平かつ分かりやすくテストすることができます。実走行と同じレベルの走行抵抗がシミュレーションできるのです。さらに1年中いつでも、どんな天候でもテストを行うことができます。これは常に完璧な技術を追求するブガッティにとって、不可欠なテストだと言えます」
ローラーセット重量が3.5トン、回転質量は約720kgという巨大なダイナモメーターは、リヤアクスル用ローラーがホイールベースに合わせて油圧調整できる。実に480km/hまでの速度を再現可能だ。ローラー1基あたりの最大制動力は1200kWを誇り、最高速度域から安全にブレーキをかけることもできる。そして、シロン スーパースポーツは、この巨大なダイナモメーターの限界に挑戦できる唯一の市販車となる。
直径1.93mのローターを持つ高さ4mの送風機は、1時間に30万立方メートルの空気を流し、最大230km/hの気流を発生させる。これにより、超高速域で現実に近いエアフローを再現することが可能になっている。このリアルなエアフローはエンジンが必要とする冷却風をエンジンへと供給し、排気系、トランスミッション、デフなどの冷却でも機能する。さらに、車両後方のゲートに組み込まれた排気ガス抽出装置は、高さ12.5mのタワーに設置された大型ファンにより効率的に排気ガスを外部へと送り出す。
ブガッティ専用に用意された固定システム
シロン スーパースポーツの強大なパワーを封じ込めるため、ブガッティは特別な固定システムを開発した。カーボン製モノコック下部にある4基のアダプタープレートを備えたフレームが、ハイパースポーツカーをダイナモメーターにしっかりと固定。20本の高強度ネジにより、プレートをモノコックへと取り付けている。
各プレートは高強度チェーンで交差して取り付けられ、試験場のフロアに固定。このチェーンは最大24トンの牽引力にも耐えることができるという。シロン スーパースポーツのボディサイド下部は、タイヤをローラーの頂点へと常に接触させるべく特殊なストラップで固定されている。
テスト中は2名のエンジニアがコクピットに座り、シロン スーパースポーツを加速させる。ダイナモ上では、非常に繊細な操作が要求されるという。「全ての負荷をかけて、最高速度域でも自由かつ安全な走行が保証されています」と、ゲリケは付け加えた。
これらの高度なシステムにより実施された今回のテストでは、スペック上の最高出力を上回る1618psが記録された。シロン スーパースポーツは現在、モルスハイムのファクトリーにおいてハンドメイドで製作されており、このような超高性能を手にすることを心待ちにしている世界各国のエンスージアストにむけてデリバリーされている。