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 2021年度(21年4月~22年3月)の新車販売台数で椿事がありました。

 2004年度以来、キャブオーバー(COE)小型トラックNo.1を走ってきたいすゞ自動車の「エルフ」が2位となり、トップの座についたのは日野自動車の「デュトロ」でした。

 「デュトロ」が首位になるのは初、日野がこのセグメントでトップになるのも初めてでした。

文/緒方五郎 写真/緒方五郎・トラックマガジン「フルロード」


エルフは17年連続トップだった

 新車販売台数は、日本自動車販売協会連合会(自販連)が毎月発表しており、COE(キャブオーバーエンジン)小型トラックは積載量1~2tの普通車(1ナンバーサイズ)と小型車(4ナンバーサイズ)については、車名別でも発表されています。

 そのため、中型トラック(日野「レンジャー」、いすゞ「フォワード」、三菱ふそう「ファイター」)に匹敵する積載量3~4tの高積載モデルは別になりますが、このセグメントに含まれる小型トラックの販売台数は少ないので、大勢に影響はしないでしょう。

 その積載量1~2tのCOE車のみで集計すると、合計9万2094台のうち「デュトロ」が2万7017台、「エルフ」が2万6589台、トヨタ自動車の「ダイナ」が1万9199台、三菱ふそうトラック・バスの「キャンター」が1万6631台となり、「デュトロ」が「エルフ」に約500台の差をつけて首位になるのです。

17年連続トップだったいすゞのエルフ

 「エルフ」はCOE小型トラック市場を切り拓いた定番モデルであり、2000年代前半に猛追してきた「キャンター」が首位を勝ちとるまで、20年以上もシェアトップの座に君臨していました。

 しかし、04年にいわゆるリコール隠し問題が発覚、ふそう車の新車販売が急減すると、「エルフ」が首位を取り戻しました。以来20年度までの17年間、再びトップを走り続けてきました。

 それほどまでに「強い」トラックが、なぜ二度目の首位陥落を喫したのでしょうか。

足を引っ張ったのはやはりアレ

 21年4月~22年3月まで月ごとの販売台数の推移をみていくと、「エルフ」に突如異変が起こることがわかります。

 実は上半期(4~9月)の「エルフ」販売は非常に好調で、シェア35%前後を常に維持して首位を独走していました。

 ところが下半期(9~3月)は前年同月を割り込み、特に11月以降はなんと前年同月の半分以下しか販売されなかったのです。そのため、下半期シェアはマイナス13ポイントの23%にまで落ち込みました。

 その原因はもちろん半導体の不足です。日本の自動車業界では、21年の春ごろから新車の供給が滞りはじめ、夏ごろにはトラック業界でも顕著になってきました。

 それは「エルフ」に限らず「デュトロ」も「キャンター」も同様ですが、「エルフ」は特にその影響がはっきり顕れたように思えます。

「デュトロ」とそのトヨタ向けOEM車「ダイナ」の21年度の販売台数は、20年度を上回っていますが、19年度と比べると減少しています。

 21年10月単月の新車販売台数で、「デュトロ」は初めて「エルフ」を上回りましたが、当時、日野の担当者にその話を聞いてみると、「どのメーカーも不順な生産状況で、いまの市場は正常な状況ではありません」といたって冷静な反応で、獲りにいって得たナンバーワンではないことがはっきりうかがえました。

 首位とはいっても、「エルフ」が減少したぶんをまるまるゲットしたわけではないので、「デュトロ」においても半導体不足が足かせであるのは確かなのです。

 「キャンター」も「エルフ」ほどではありませんが、下半期で販売台数が急減しており、半導体不足の波が襲っていることがうかがえます。しかし、ここ数年18~20%で推移しているシェアが21年度は少し下がった程度で、おおむね安定しているともみられます。

もうあのコピーは使えない

 22年度の新車COE小型トラックがどのような販売実績を示していくか、というか「エルフ」の供給がいつ正常化するかは、ひとえに半導体の調達状況しだいというところ。

 世界的な半導体供給の見通しは、夏以降に回復していくのでは? という説もあれば、2024年まで不足が続くのでは? という説もありますが、それだけ誰にもハッキリと見通せられないということです。

新車販売台数でトップとなった日野デュトロ

 また、エンジン認証不正問題で揺れる日野ですが、「デュトロ」「ダイナ」は不正が行なわれていないので、いままでと変わらず生産・販売が行なえるモデルとなっています。

 半導体の調達が今後も継続できるのであれば、2年連続首位となる可能性もあり、日野の屋台骨を支えるためにも、その販売にはいっそう力が入るでしょう。

 いっぽう、「エルフ」にはもう一つ大きな影響があります。それは「○年連続No.1」という定番の広告コピーを、しばらく使えなくなってしまったことです。

 半導体不足を引き起こした新型コロナ禍は、巡りめぐって自動車の広告文化にも影響を及ぼしたわけです。もしも「エルフ」に意思があれば、誇るべきタイトルをコロナウイルスが奪いさったと思っているかもしれません。

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