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連休明けから改正道交法が施行されたが……高齢者の免許返納はどうすれば進むのか?

 主に高齢者のドライバー増加に合わせ、道路交通法が改正された。5月13日、つまりすでに改正道交法は施行開始されているのだが、この改正で75歳以上の免許更新手続きが変更されたようだ。

 いったいどのように内容が変わったのか、本企画で解説する! 今は無理に免許返納するより、しっかりトレーニングを重ねて新しい道交法クリアにチャレンジするほうがいい!?

文/松田秀士
写真/AdobeStock(トビラ画像=naka@Adobestock)

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■認知機能検査項目の変更と高齢者講習一元化を実施

 あの池袋の高齢運転者による悲惨な事故から3年が過ぎた。高齢大国ニッポンである。それゆえことあるごとに高齢運転者の交通事故がニュースに取り上げられている。そこで高齢運転者対策の充実・強化の目的で、改正道交法が施行された。GW明けの5月13日以降、75歳以上の免許更新手続きについて以下の3点が改正されている。

1:認知機能検査の検査方法の変更
2:高齢者講習の一元化
3:運転技能検査の新設
と、この3つである。

 まず、1:に関しては現行の認知機能検査項目が「時間の見識・手がかり再生・時計描画」の3項目から「手がかり再生・時間の見当識」の2項目に変更された。

 2:に関しては現行の「認知機能検査の低下しているおそれがない/認知機能が低下しているおそれがある/認知症のおそれあり」の3区分から2区分に変更され、認知機能検査結果に基づき認知機能検査が76点以上→「2時間講習」/49~75点→「3時間講習」に分かれていた高齢者講習が2時間の講習に一元化された(48点以下は医師の診断を受け、認知症と診断されれば免許取り消し。認知症ではなかったと診断された場合は3時間講習を受けることになっていた)。

 と、ここまではいわゆる認知機能のレベルなどを見極める検査と講習の効率化を狙ったものと思われる。つまり、高齢運転者の増加によって免許更新の効率化を行う必要性に迫られているのではないだろうか。

 特に1:と2:はこの時点で認知機能の低下レベルを見極め、免許返納の可否予測のための重要な検査といえる。実際、この検査にはたくさんの参考書や練習問題が出版されていて、書店でもインターネットからでも簡単に入手することができるのだ。

 とはいえ、事前に練習問題で習熟して検査をパスすることにどれほどの意味があるのか疑問だ。検査の目的はその高齢運転者の現在の認知レベルを見極めることが目的なのだから。一夜漬け勉強のような形でパスして免許を更新することでは意味がない。

■運転技能検査の新設は重要

 しかし、3:運転技能検査の新設は意味がある。75歳以上の高齢運転者のうち普通自動車対応免許所持者が過去3年以内に一定の違反がある場合、運転技能検査を受けて合格しない場合は、免許の更新ができなくなるのだ(不合格の場合、免許を返納して原付などにする場合は更新可能)。

 運転技能検査の対象となる違反は次のとおり。
1:信号無視 2:通行区分違反 3:通行帯違反等 4:速度超過 5:横断等禁止違反 6:踏切不停止等・遮断踏切立ち入り 7:交差点右左折方法違反等 8:交差点安全進行義務違反等 9:横断歩行者等妨害等 10:安全運転義務違反 11:携帯電話使用等

運転技能検査で新たに設定された11の確認項目をクリアしなければ、運転免許を持ち続けることが困難に(カキザキダイジ@AdobeStock)

 これらはいずれ重大事故を起こす可能性が高い違反という位置付けなのだ。

 では、この運転技能検査に不合格となってしまったら、もう二度と免許更新して運転できなくなるのか? というとそうではなく、免許更新手続期限まで複数回受験することが可能なのだ。つまり、運転技能検査に落ちてしまってもチャンスは何度でもとはいかないまでも何度かある、ということになる。

■クルマの運転=スポーツである

 では、その運転技能検査の内容とはどんなものだろうか? 詳細は不明だが、普通自動車でコース内を走行し、一時停止や右左折等の課題を実施して採点を行い、検査結果をもとに適切な運転方法等を指導する、となっている。

 筆者が考えるに、この運転技能検査を3回受けても不合格になる高齢運転者は、もう免許を返納したほうがいいだろう。

 ここでお断りしておくが、筆者は高齢運転者の免許返納を奨励し、背中を押してあげることの推奨論者ではない。高齢運転者の『安全運転寿命を延ばすレッスン』(小学館刊)なる本を執筆し、どうすれば高齢運転者が安全に移動の自由を楽しみ、生活のための足として長くクルマを運転できるのか、という方法を提唱させてもらっている。

 とはいえ、どんな高齢運転者でも免許更新をするべきとも考えてはいない。

 クルマの運転はスポーツだと筆者は考えている。筆者自身がレーシングドライバーだったからというのもあるが、どんなスポーツも加齢とともに技術レベルは低下してくる。クルマの運転も同じで、認知・判断・操作という運転の3要素の総合レベルが低下してくる。

スポーツも加齢とともに技術レベルは低下してくる。クルマの運転も同じで、認知・判断・操作という運転の3要素の総合レベルが低下してくる(Patrick Liepertz@AdobeStock)

■スポーツにトレーニングは有効

 そこで高齢になっても安全に運転を続けるためには、運転レベルが穏やかな下降線を描くように低下するようトレーニングを50~60歳台から行う必要がある、と筆者は考えるのだ。つまり、70歳を過ぎるまで何も行わず、まるでシロモノ家電を扱うように運転をしてきたのでは、この運転技能検査に合格できる確率は低いだろう。

 それでも地方のようにクルマが足となって、ほぼ毎日運転をしている高齢運転者などの合格率は高いと考える。いちばん危険なのは月に数度以下しか運転しない、あるいは運転しなくても生活に不便を感じない高齢運転者だろう。

 こういうシチュエーションにある高齢運転者は、自分の運転技術の低下になかなか気づかない。体幹筋が加齢により疲弊していても、昔と同じドライビングポジションで平然と運転している場合が多いのだ。そのために足が伸びきってアクセルとブレーキの踏み間違いを起こしたりする。

 また加齢とともに老眼(老視)になる。乱視になる人もいる。クルマの運転で重要なのが視認。90%以上を視力、つまり見ることに頼っている。特に最近のクルマは安全対策の構造上ダッシュボードの位置が高くなり、Aピラーも太い。このため前方及び側方視界がよくない。

 今一度、しっかりした視力検査をするべきで、検査をパスしたから眼鏡は要らないと考えるのは間違いだ。筆者は眼鏡等の条件はないが、普段も運転も眼鏡を常用している。ナビやメーターも、そして前方も後方もしっかり見え、なおかつ疲れにくいからだ。

■免許を返納しても社会と繋がれる街を

 高齢になると疲れやすい。さらに疲れると回復に時間がかかる。あなたが晴れて運転免許更新ができたとしても、運転疲労というものに真剣に向き合ってほしい。運転疲労が一番の事故原因と筆者は考えているからだ。

 高齢になっても運転疲労を起こしにくく、ある程度早い回復力を維持することが安全運転に必要なこと。そう考えると、身体の準備を日々行うことが重要なのだ。それが健康寿命にもつながる。最近ではサポカーを含め、ACCとLKA(車線内中央維持)を装備するクルマが増えてきた。このような安全機能を装備したクルマを選ぶことで運転疲労も抑えられる。

 新しく導入された運転技能検査によって、更新できずに運転免許を返納する人は増えるだろう。返納促進のために各地方ではさまざまな特典を設けているが、1万円レベルの公共交通回数券やタクシー券がほとんど。これはひどい。

 免許を返納した高齢者が引きこもりがちになり社会と断絶して認知症になって亡くなる、という話をよく聞く。高齢者が免許を返納しても、社会生活をスムーズに営めるようなケアの構築を早急に行う必要がある。そうなって初めて高齢運転者の免許返納を、誰もが推奨できる社会になるのではないだろうか。

 筆者は、個人的には高齢になっても安全運転ができる運転者が増えることを望んでいるのだが……。


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