ITARDA(公益財団法人 交通事故総合分析センター)が「ペダル踏み間違いによる事故 ~事故統計分析から多重衝突の実相に迫る~」というデータを発表した。
内容としては、2018~2020年に発生した死亡事故のデータから、ペダル踏み間違いによる事故がどの年齢に多いのかや、対車両・単独・対人というケース別にみる死亡事故が発生しやすい操作やその構成率の分析を行っている。
データによると、ペダル踏み間違いによる死亡事故は75歳以上が最も多く、次いで65~74歳となっている。またペダル踏み間違いによる事故(死んではいない)は、車両単独と人対車両という項目でやはり75歳以上が最も多く、次いで65~74歳となっていた。
今回はこのデータを参考に、高齢者の踏み間違い事故はなぜ多いのかや、その要因について考察していきたい。
文/高根英幸
写真/AdobeStock(トップ写真=buritora@AdobeStock)
出典/ITARDA、IRTAD
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■誰にでも起こりうる事故だが、やはり多い高齢者の比率
連日報道されるウクライナ危機によってその他のニュースの注目度が低下しているかもしれないが、交通事故は平均すると日本国内だけで毎日1000件前後は起こっている。なかでも気になるのは、やはり高齢ドライバーによるペダル踏み間違いが原因の交通事故だ。
報道されているから目立つのではとか、若年層でもペダル踏み間違いは多い、など高齢ドライバーの運転ミスが原因ではないとする意見もあるが、深く調べてみればまた違う考え方に辿り着くこともある。
高齢者の比率が上昇していることも影響しているのだから、交通事故においても自然に高齢ドライバーの比率が上がる、というのは当然のことだ。
しかしペダル踏み間違い、という原因について注目すれば、それは自然増だけではないことはデータが証明している。なぜならペダル踏み間違いによる死傷事故自体は、2010年から2019年の10年で4割も減少しているからだ。
そういった意味では報道による注目度上昇が、高齢ドライバー=踏み間違い事故を起こすという印象操作をしている感も否めなくはないが、交通事故が減少している中で高齢ドライバーの比率が大きく上昇しているのだから、高齢ドライバーの特性の何かが関係していることは間違いない。
確かに若年層ドライバーでもペダル踏み間違いは起こるし、それによって事故を起こしてしまうことはある。ところが若年層では重大事故につながる確率は高齢ドライバーに比べてずっと低いのだ。
高齢者の特徴として、最初に踏み間違いなど操作ミスをしたことによってパニックになり、さらにアクセルを強く踏み続けてしまうことで、重大な事故になってしまうためだ。若年層は踏み間違いに気付けば、即座にペダルを踏み替え、例え衝突事故を起こしても軽傷で済む確率がずっと高いのである。
これは脳の老化が影響している、という分析もある。脳の各機能において、行動を抑制させるのは大脳皮質の前頭葉という部分で、ペダルを踏み込む運動を司るのは、脳の中でも原始的な小脳と呼ばれる部分だ。しかし人間の脳は前頭葉のほうが先に老化していくため、行動を抑制することが難しくなってくるらしい。
大脳皮質の老化によって前頭葉の機能が低下してしまうと、ペダルを踏み込む動作はできても、調整したり、踏み込むのを止めるという抑制は効きにくくなってしまうのだ。単にパニックになって緊張することで身体が硬直してしまって踏み続ける、というだけではないのである。
だから年を取ると怒りっぽくなったり、1つのことしか見えなくなったりと行動の抑制が難しくなったりすることも多いらしい。
■ITARDAのデータから見えるペダル踏み間違い事故の実態
ITARDA(公益財団法人 交通事故総合分析センター)が先頃、ペダル踏み間違い事故の分析レポートを発行した。それによると、ペダル踏み間違いによる事故を死亡重傷事故件数で見ていくと、75歳以上の高齢ドライバーがやはり多くを占めている。
そもそも10歳刻みで区切っている下の年齢層に対して、75歳以上は84歳以上も含まれるから、年齢層がほかよりも広いこともあるが、64歳以下の各10歳区切りと比べると65歳~74歳と75歳以上が圧倒的に多く、75歳以上は65歳~74歳と比べても倍くらいの件数となっている。
しかもクルマ同士や歩行者を巻き込んだ事故ではなく、車両単独での事故が多い。これは65歳~74歳でも多いのだが、75歳以上になると倍近く増える。これは他車の動きや環境が原因というよりドライバー自身が原因であることの証とみることもできる。
また別のデータ分析では55歳以上のドライバーでは多重衝突が多いという傾向があるようだ。これも前述のように行動を抑制できないため、パニックになるとアクセルを踏み続けてしまうことに影響があると考えていいだろう。
単独事故でも1カ所の衝突では止まらず、ガードレールから電柱、建物と次々とぶつかってしまうことで、エアバッグが作動しても乗員が重傷化してしまうケースも多いようだ。
■ペダル踏み間違いを防ぐには、どうする?
ペダルを踏み間違える根本的な問題として、運転姿勢に原因があることも多い。その対策としては、適切なドライビングポジションを取ることだ。
ドライビングポジションと言うと、クルマに詳しい読者の中ではシートの調整位置や角度のことだと想像する人も多いのではないだろうか。しかし実際にはドライビングポジションは、ステアリングを握る位置、ペダルを踏む足を置く位置まで考えなくてはいけないのである。
もちろんシートが遠いことで、しっかりとペダルを踏むことが難しいため急ブレーキでの制動不足による衝突、というケースも少なくないと思われる。
それだけでなく、アクセルの前に右足の踵を置き、ブレーキ操作時には足を内側に捻る、もしくは踵を内側に置き換えて踏み込むという操作をしている場合、足を捻る量や踵を移動させる量が足りないと、再びアクセルペダルを踏んでしまうことになる。
そもそも「長年運転してきた」、「これまで大きな事故はしていない」など、実績が自信となって運転を過信したり、油断につながっていることも問題点だろう。加齢だけでなく自らの習慣を振り返ることが大事なのだが、日常に溶け込んでいる習慣は、自分では危険性になかなか気付かない。
2ペダルのATが主流になっているのもかかわらず、アクセルとブレーキペダルの位置関係はそのままで、踏み間違いを起こしやすい構造になっていることも、原因の1つではある。しかしMTの比率がまだ意外と高い欧州との保安基準や運転操作の統一性を考えると、アクセルを別の操作方法に切り替えるのは難しい。
例外として超小型モビリティのFOMM ONEは、ステアリングのパドルでアクセル操作を行なうが、これが主流になる前に自動運転が普及するのではないだろうか。
サポカー限定免許はできたが、まだ本人が希望する場合の対応であり、サポカー自体も完全に操作ミスを防いでくれるものではない。衝突被害軽減ブレーキや誤発進抑制装置の普及も進んでいるが、あくまでドライバーが操作することが前提となっているだけに、アクセルを踏み続ければ加速してしまうケースもある。
完全自動運転が実現する(それがベストな選択かはまた別の話だ)まで、高齢ドライバー問題は当面の間は深刻な状況が続きそうだ。
自らは高齢ドライバーではないからと他人事に思わないことだ。対向車や後続車など周辺には高齢ドライバーのクルマはたくさん走っている。また家族が高齢ドライバーであったり、歩行中の家族が事故に巻き込まれる可能性だってある。そして自分自身もいつかは高齢ドライバーになるのだから。
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