世界そのものを楽しむ作品
今回は「VRChat」で制作された「Amebient」という作品を紹介します。「VRChat」ではユーザーが制作する様々な“ワールド”を訪問してユーザー同士で交流を楽したり、“ワールド”自体の世界観を楽しんだりできます。
コロナの影響もあって「VRChat」の利用者は急増しています。私自身、映画祭などのイベント参加のために「VRChat」を利用していましたが、その魅力に気づいたのは「Amebient」に出会ってからでした。
今回紹介する「Amebient」は、Phi16氏、Cap氏、らくとあいす氏の3人のクリエイターによって制作され、VR Architecture Award02で大賞を獲得している作品です。作品の概要欄には「雨と音。そして終わりかけの世界があります。」とだけ書かれ、しっかりとしたストーリーがあるわけではありません。しかし、ユーザーの行動次第でワールド全体が変化していくため、時間のの流れゆきそのものを鑑賞できる作品となっています。
オススメのポイント
1.退廃的な世界の美しさ
無機質な部屋、剥き出しのコンクリートに、半分水に沈んだビル、世界の終わりを間近に控えたような世界です。しかし、なぜかそこにいることが心地よく感じられます。雨が廃墟に降る中、その雨音が奏でるリズムが耳を楽しませてくれるのです。
「Amebient」の“ワールド”は雨音のリズムを奏でる廃材等があるメインフロアとゆったりとしたソファで雨音を聴きながら、壊れかけの風景を眺められる最上階、何やら怪しい機械やモニターが置かれている地下の3層に分かれています。何より最上階からの景色は美しく、時間を忘れてずっといられるような空間になっています。変わっていく雨や雲の表現はとてもリアルで、ジッと観察していると、突然の雷鳴に驚かされました。この世界に本当に自分が実在しているという感覚をもたらせてくれます。
2.自分の行動が世界に影響する
今作では自分の行動が世界に影響します。冒頭、心地良いリズムの雨音を聞いていると、ユーザー自身も床に落ちているフライパンや鍋、ドラム缶などを雨の滴が落ちる場所に移動させることで音を変えたり、奏でたりすることができます。
リズムが変わると、見えてくる世界も変わっていき、しばらくすると雨音からシャボンの泡が現れ、雲行きが怪しくなり、雷と共に豪雨に変わります。やがて周囲の水は次第に上がっていき……。
ワールドの水に入るとき、初めは少し恐怖を感じたのですが、しばらくすると、ゆったりと水に包まれているような優しさがあり、心地よく感じられました。“世界の終わり”といえば、一般に恐怖や喪失感をイメージしますが、この作品では、どこか安らぎを感じるようなものであったと思います。
3.ずっと、この場所にいたくなる
導入から結末までの一連の流れが用意されています。しかし、ただその流れを体験して終わるというような今までのストーリーテリング的な作品ではなく、その一連の流れの中で自分の好きなように行動をしても良いというのが特徴です。
また、ワールド内には、さまざまな仕掛けもあり、それらを発見することで、さらに自分自身が世界そのものに影響を与えることができます。そうやっていくほどに、この場所で過ごす時間が長くなり、この世界と繋がっている感覚を持てるようになります。
目に見えない大きな力に支配された世界の中で、必ず迎える世界の終焉をどう過ごすのか。実際に体験してみると良いでしょう。
作品データ
タイトル |
Amebient |
ジャンル |
アニメーション |
クリエイター |
Phi16, Cap, らくとあいす |
制作年 |
2020年 |
制作国 |
日本 |
本編尺 |
体験者次第 |
視聴が可能な場所 |
VRChat: |
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