クルマの電動化や自動運転など、自動車業界は新たなステージに進もうとしている。製造者であるメーカーの広告・宣伝は華やかで、近未来へ向けての希望や展望がうかがえるものだ。
しかし、販売を担当するディーラーへ目を向けると、ここ数年、明るい話題はあまりない。そればかりか、新車の納期遅延、不正車検など、報道でも大きく取り上げられる問題が、数多く発生している。
日本の自動車産業を支えてきた自動車ディーラーは、今後どうなっていくのだろうか。ディーラーの今、そして未来を考えていきたい。
文/佐々木亘
アイキャッチ写真/Maksym Povozniuk – stock.adobe.com
写真/TOYOTA
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整備士への高負荷は未だ解消されず
2021年7月に、大きなニュースとなった不正車検。その後、トヨタ系ディーラーの各所で、同様の事案が確認され、対象のユーザーへは、再検査等の対応が続いている。
日々のメンテナンス業務を行い、さらに突発的に発生するメーカー主因のリコールへ対応しなければならないなど、ディーラーの整備部門は、日々休まる暇がない。
不正車検問題が大きく取り上げられ、現場では一時、業務改善の動きが少なからず見えたという。しかし、その動きも1年が経過しようとしている今、下火になり元の状態に戻っていると、現場の整備士たちは口をそろえる。
そもそも、短時間で完了させねばならず、安価な整備料金しかもらえない、ディーラー整備(車検)の現状が、これまでも多くの問題を発生させてきた。そもそもの構造が、整備士への負荷を高め、安い賃金しか払えないという悪循環を生み出していることは、先ごろの不正車検問題への釈明で、メーカーや販売店上層部は、深く認識をしたはずだが、いまだに改善の動きは見られない。
声高らかに、「整備士の数を増やし負荷を軽減する」、「労働環境を改善し、賃金や評価の見直しを行う」と言ってはみたものの、ほとんど実行に移されていないのが現状だ。
こうした現状を見た若年層は、整備士の仕事から遠ざかる。整備士のなり手不足が助長され、さらなる悪循環を生んでいる。
後にも述べるが、これからのディーラーを支えるのは、間違いなく整備(サービス)の分野だ。かつては花形で販売店粗利の7割を支えていた車両販売(車販)だが、近年は落ち込みが激しい。現在は車販とサービスの粗利は、ほとんど変わらなくなってきている。
今後、販売よりもユーザー管理や車両整備に対して、さらに大きな比重をかけられるディーラーでは、整備部門の改善が急務だ。
問題が浮き彫りになったトヨタディーラーはもちろん、他メーカーのディーラーでも、整備士の環境整備は待ったなしである。
クルマを売ることができなくなる? 販売・営業の変化
ディーラーとは、正規特約店のことを指す。つまり、メーカーやブランドが正式に認定した販売店ということだ。
新車を直接メーカーから譲り受け、ユーザーへ販売するのは、正規ディーラーだけに許された特権と言ってもいい。こうした「販売」に対する権利を、数多く持っているのがディーラーなのだが、ここ数年の「販売」に関する動きは、ディーラーの特権を大きく揺るがすものとなっているだろう。
新型コロナウィルスのまん延により、大きく進んだ社会のオンライン化。対面での商売が避けられ、非接触・非対面の活動が進められている。オンラインショールーム、カタログの電子化、そしてオンライン商談など、自動車販売の現場でも、営業活動の様相は少しずつ変わってきた。
ユーザーがオンラインで情報を取りに行ってくれるのであれば、車両販売はもっと簡素に出来るのではないか。さらには、商談・値引きという文化が残るいっぽうで、もっと手軽にクルマを買いたいという声も広がっている。
こうした声を受けてか、先ごろトヨタが発表したBEV車「bZ4X」は、法人へのリース、並びに個人へはKINTOを使った提供と、販路を限定したのだ。車両本体価格やオプション、税金、保険など、クルマの購入から維持管理に必要な費用をひとまとめにし、月額利用料を支払う形でクルマを利用する、クルマのサブスクリプションサービス「KINTO」は、これまでの新車販売方法とは大きく違う。
KINTOでは、ユーザーがオンライン上で、メーカーに対してクルマの注文を入れる。その注文をうけたメーカーは、ユーザーが利用したいと申し出た近隣ディーラーに対し、bZ4Xの注文を入れるように要請するのだ。
これまで、ユーザーからディーラー、ディーラーからメーカーへと行われていた新車の注文だが、KINTOではディーラーの注文業務はあるものの、ユーザーがディーラーを飛ばしてメーカーに発注するという動きになる。
これにより、ディーラーの担う新車販売業務は、登録準備・納車に限られた。bZ4Xにおいてディーラーは、クルマの維持管理をサポートする立場がメインとなるのだ。KINTOという仕組みのなかでは、販売店とは名ばかりで、管理店や整備店というほうが、正しいように感じる。
bZ4Xのケースは、試験的な部分も多いと思う。しかし、今後オンライン化が進むなかで、ディーラーの販売業務が縮小していく可能性は大いにあるのではないだろうか。
ディーラーの存在意義とは何か
ディーラーの地場資本化(メーカーとは関係のない別会社が販売店を運営する形態)は、近年、大きく進んだ。それぞれのディーラーが、各地域でしのぎを削り、生き残りをかけた戦いは既に始まっている。
車販における利益の減少、そして今後見直されると思われる新車販売方法の変化によって、販売店の仕事は「売り」ではなく「維持・管理」に大きくシフトするものと筆者は考える。
このようななかで重要なのは、管理顧客からの圧倒的な支持だ。クルマを維持・管理するために必要となる的確な情報発信と、信頼のおける整備業務が販売店を支える柱となっていく。
ディーラーの役割は、地域に根ざし、ユーザーとクルマを繋ぐ架け橋になることだ。自動車社会におけるエキスパートとして、単純な売買ではなく、クルマのコンシェルジュ的な立場を極めていかなければならない。
労働環境の改善や、収益構造の見直しなど、ディーラーに対する課題は山積している。それでもなお、他の業態では代替することが出来ない仕事だと、社会全体に思わせるようなディーラーの動きを、これから期待していきたい。
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投稿 トヨタ bZ4xで激震!? 高まる自動車整備士の重要性と変わる販売店の存在意義 は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。