2022年中には米国の一部でも認証を取得予定
自動運転テクノロジーは、現在の自動車メーカーにとって電動化と並ぶキーファクターのひとつ。2021年には、ホンダが「特定条件下での自動運転」を実現するレベル3の自動運転機能を搭載したレジェンドを発売している。
メルセデス・ベンツでは、2021年12月2日に自動車線維持システム(ALKS)による自動運転の型式認証をドイツ連邦自動車局から取得。高速道路など一部の定められた環境下において、60km/h以下での走行時に限り、同一車線内で「速度維持」「車間距離保持」などを車両が自動で操作。回避すべき状況が発生した場合には車両自らが同一車線内で回避、もしくは停止する。メルセデスでは同機能を「DRIVE PIROT(ドライブパイロット)」と呼称し、まずはSクラスとEQSにオプション設定することとした。
前述のホンダ レジェンドがリース販売のみの100台限定という扱いであったのに対し、当初はドイツ本国内だけとはいえメルセデスでは台数を限定せず、既存の最新Sクラス及びEQSに広くオプション品として提供するという手法を採った。なお、2022年中には米カリフォルニア州とネバダ州での認証を取得する計画であるという。
オプション価格は邦貨約69万円〜102万円
メルセデス・ベンツのドライブパイロットは、ライダー(LiDAR=Light Detection and Ranging:光による検知・測距)技術を搭載したセンサー、カメラ、湿度センサー、音声認識装置、高精度GPS、高精細3次元地図などを駆使して、条件付きながらも自動運転モードで最高60km/hまで走行することを可能にした。
ドライブパイロットのオプション価格は、Sクラスが5000ユーロ(約69万円)、EQSが7430ユーロ(約102万円)。ライダーをはじめ、高精度GPS、高精細3次元地図、フロントマルチモードレーダー(開口角130度のふたつのレーダーセンサー)/フロントロングレンジレーダー/フロントステレオカメラ(開放角70度)/後方マルチモードレーダー(開口角130度のふたつのレーダーセンサー)/360度カメラ(至近距離用に4基)/超音波(近距離用、開口角120度の12個のセンサー)/ドライバー用カメラ/アレイアンテナ/路面湿度センサーなどが一連の装備となる。
あくまで運転の責任はドライバーにあり
レベル3相当の技術なので、ドライバーはドライブパイロットを使用している間、セカンドタスクをできるようになる。道路状況を注視することから開放され、メールチェックや携帯電話による通話、インターネットの閲覧など、本来運転中に禁止されている行為やブロックされている機能が有効になる。例えば高速道路での通勤中、いつも同じ場所で渋滞が待っているというドライバーは少なくないはず。その時間でニュースを確認したり、各方面への連絡などが可能になれば、朝夕の貴重な時間を有効活用できる。
ただし、システムからの指示があった場合や、ドライブパイロットを正しく使用するための条件が揃わなくなった場合には、必要に応じてすぐに運転を再開できるよう常にドライバーは準備をしておかなくてはならない。つまり、睡眠や座席からの離脱などはNGである。あくまですべての責任はドライバーにあるのだ。
ステアリングには専用のスイッチを搭載
また、ドライブパイロット作動中にドライバーが重度の健康上の問題などにより、指示を出しても運転を引き継げない場合、適切な減速度でブレーキをかけて車両を自動停止させる。同時にハザード警告システムが働き、車両が停止するとメルセデス・ベンツの緊急通報システムが作動、ドアと窓のロックを解除して、救急隊員が車内に容易にドライバーを救出できるよう準備を整える。
実際にドライブパイロットを装着した車両の画像を見ると、一部ステアリングの仕様が異なっていることが分かる。ちょうど10時10分の位置に、通常のホイールにはないスイッチが搭載されている。これはドライブパイロット専用のスイッチであり、スタンバイ、もしくは作動中であるかどうかなどを示すアテンションライトも備わっている。既存のボタン類やディスプレイ表示から独立した“自動運転専用スイッチ”を設けることで、「運転操作をシステムに任せるか否か」「現在の操作を担当しているのはシステムか、自分か」をできるだけ明確に、直観的に把握できるよう配慮しているようだ。
新技術はまずSクラスから
メルセデス・ベンツにとって、Sクラスは特別なモデルだ。いつの時代も、半歩先の近未来を体現する新しいテクノロジーのショウケースとして、安全や走行性能、快適性の基準を常にアップデートし続けてきた。新技術はまずSクラスに搭載し、やがてラインナップの裾野まで広げていくという、いつものメルセデスのやり方である。
今回、フラッグシップサルーンのSクラスとEQSのオプションリストに加わったドライブパイロットも、今後の状況を鑑みながら、随時改良を加えつつ徐々に幅広いモデルレンジへ展開されていくことになりそうだ。