西九州新幹線の暫定開業日が決まり、特急料金も明らかになり期待が高まる。本来的には博多と長崎がフル規格の新幹線で結ばれて初めて完成となるのだろうが、当面は博多からはこれまで通り特急かもめ号で武雄温泉まで行き、新幹線に乗り換えて長崎に向かう形をとる。新幹線の開業で同区間を走る高速バスには勝ち目はないのかについてオピニオンを述べる。
文/写真:古川智規(バスマガジン編集部)
九州新幹線と乗り換え方式は同じ
かつて南側から開業した九州新幹線鹿児島ルートは新八代駅で在来線リレーつばめ号と同一ホームで新幹線つばめ号と乗り換えをしていた。西九州新幹線も同様に武雄温泉駅で同一ホームで乗り換える方式だ。
福岡・鹿児島間の高速バス「桜島号」は新幹線が全線開業した後も便数は減り夜行便が消滅する等しているが現在でも13往復の運行が確保されている。
鹿児島は長崎よりも距離が長いので航空便もある上に新幹線には時間ではまったく太刀打ちできない。しかし普通運賃が5000円と安いことや福岡では天神や空港、鹿児島では空港や天文館と市街地を直結する利便性もあり4社共同運行が維持される。
福岡・長崎間は鹿児島と比較して距離が短いために鉄道と高速バスは現在でも一騎打ちだ。現在の高速バス運行会社は九州急行バス。本州の方にはなじみのないバス会社かもしれないが、歴史的経緯から通過する沿線バス事業者が出資して設立したバス会社だ。
昔は高速バス路線の免許は基本的に1社に限られていたため、共同運行という手法が確立するまでは沿線事業者が専門の運行会社を設立してその1社が免許を取得する形態をとっていた。
このような手法で設立されたバス会社は時代とともに存在意義を失い、出資会社に吸収合併され路線も移管されたケースが多いが、九州急行は現在に至るまで1社で福岡-長崎線を運行する。
九州急行は九州号のみを運行!
九州急行は福岡県・佐賀県・長崎県のバス事業者5社(西日本鉄道・昭和自動車・祐徳自動車・西肥自動車・長崎県交通局)が各20%を出資し設立され、福岡-長崎間のその名も「九州号」のみを運行する。それ以外の路線バスも高速バスも持たない珍しい会社だ。
当時は高速道路すらなく、一般道を経由する特急バスとして運行していたが、高速道路が開業延伸するたびに路線を載せ替えて現在では市街地以外のほとんどの区間を高速道路で結ぶ。
九州号の特徴は路線と増便の臨機応変さだ。まず路線はスーパーノンストップ便にも普通便にも複数の系統があり、乗降場所によりきめ細かい系統になっている。また設立当初から西鉄の資本が入るため、福岡では西鉄と同じ扱いを受けるかのように最大の繁華街である天神に乗り入れるのが最大のメリットだ。
増便もフレキシブル
多客期にはすぐに臨時便や続行便が出せるのはバスならではのメリットだ。九州急行は福岡にも長崎にも営業所があるが、それでも手が足りない場合は、福岡側では西鉄グループ各社が、長崎側では長崎県交通局が続行便を出す。
さらに長崎県営バスは福岡にも営業所があるので、福岡発の続行も出せるフレキシブルさが強みでもある。
この1路線だけの運行のため、バスも高速車のみを導入すればよい。よって比較的身軽でもある。昔から西鉄系の西日本車体工業製新車が多く入り、現在では国内3社の純正ハイデッカーで占められる。
むしろ九州急行の現役落ちの中古車が出資各社に転属していくほどなのだ。かつては3列シート車も多く導入されていたが、最近は4列トイレ付車で運行されている。
九州号の運賃は鉄道対抗のため過去には値下げされたこともあるが、現在の普通運賃は2620円、往復で4800円だ。ちなみに鉄道の割引きっぷは往復で使える2枚きっぷ(特急普通車指定席)で6300円だが、ネット限定で7日前までに購入すれば片道2340円で利用できるので実質の差はあまりないと言える。
勝負は利便性か?
西九州新幹線の割引きっぷの詳細は明らかになっていないが、現在の割引乗車券の発売額よりも安くなることは考えにくい。それでも伝統的に高速バスと新幹線を含む鉄道があらゆる区間で死闘を繰り広げている九州なので、九州号の運賃はかなり意識してくるのは間違いないだろう。
よって運賃・料金の実質の差は新幹線が高いのは言うまもないが、東海道新幹線と東名ハイウェイバスほどの差はないものと推測される。
所要時間は在来線の博多-長崎間が特急列車で2時間程度、九州号が天神から最速で2時間15分程度。新幹線が開業すると時間では勝負にならないだろう。そうすると運賃はバスが若干有利になり、時間では新幹線がはるかに有利になる。問題は発着地だ。
九州号は博多バスターミナル・西鉄天神高速バスターミナルに停車するし、系統によっては福岡空港国際線ターミナルにも停車する。これは鉄道には真似できない利便性だと言える。実際に九州号で航空便の多い福岡空港で下車して乗り継ぐ乗客も多い。
乗り換えの有無は決定打になるか?
そして在来線で長崎まで直通する特急列車はなくなる。2時間未満になると思われる在来線と新幹線だが、必ず乗り換えが必要になる。時間優先のビジネス客は新幹線を選択する層が多いことが予想されるが、そもそもコロナでリモートが多くなっている現状でどれだけ取り込めるのかは予断を許さない。
ましてや一般の乗客は開業当時の「ご祝儀相場」期間は別として、いざ常用しようとすると乗り換えのわずらわしさが目立ってしまうかもしれない。
九州急行がどのような戦術に出てくるのかは未知数だが、もし会社の体力と車両やマンパワーに余裕があり、そもそも鉄道よりも定員が少ないバスをこれまで以上に頻発させるようなことになれば勝負はふたを開けてみるまで分からない。
九州にはSUNQパスという九州島内のほぼすべての路線・高速バスが乗り放題のバケモノ乗車券が存在する。もちろん九州号でも利用可能なので九州を横断的に旅行するにはバスの利便性がかなり高い特殊な地域だと言える。
本州からの旅行者が初めて天神に降り立つと、路線バスと高速バスのあまりの多さにひいてしまうという話は言い得て妙だ。
新幹線全線開業までは勝算ありか?
バスマガジン記者なので、バスに対してひいき目なのは率直に認めるところだが、それでも九州におけるバスの強さと利便性を考慮するとバスは防戦一方ではなく、やりようによっては勝算はあるとみる。もっとも新幹線が全線開業すれば勢力図はさらに大きく変わるだろうが、それはまだ当分先の話になるだろう。
新幹線開業後に長崎を訪れる機会があれば、片道は高速バスにしてみてはいかがだろうか。福岡に限らず長崎から九州島内各地に高速バスが出ているので新幹線とともに、SUNQパス等を使ったダイナミックなバス旅も楽しんでいただきたい。
投稿 まもなく開業の西九州新幹線!! 高速バスが生き残る道はあるのか は 自動車情報誌「ベストカー」 に最初に表示されました。