大学編入の過去問の閲覧につき、熊本大学文学部が従来の学内での閲覧に限っていたシステムを今年度から郵送も加えることに変更したもようである。当サイトが4月に遠隔地の受験生が入手できないような制度は改めるべきと申し出をしたことがきっかけになった可能性がある。
■過去問公開方法は各大学任せ
1999年から専修学校(いわゆる専門学校)から大学3年に編入できる制度が始まり、現在、多くの大学で編入試験を実施している。しかし、その過去問の入手方法が問題で、一部の大学では学内での閲覧に限っている。
4月8日、国立の熊本大学の文学部に電話で問い合わせたところ、まさに学内での閲覧限定のシステムを取っており、郵送などのサービスは行なっていないとのことであった。その点、遠隔地の受験生が著しく不利になり、国立の大学の制度としてはおかしいのではということを伝え改善を申し出たが「お話はうかがっておきます」という冷めた返事が来たのみであった。
同日、文部科学省高等教育局大学振興課大学入試室に相談したところ、過去問の公表は毎年発表する「大学入学者選抜実施要項(令和4年度版)」で原則を示し、公開方法については各大学に任せているので、文科省から大学に指導をするようなことはできないという話であった(以上、大学編入受験生の過去問閲覧に壁 参照)。
僕自身、専修学校で大学編入を目指す学生の手伝いをしており、九州では九州大学に次ぐ難関として高い人気を誇る熊本大学への受験を考える学生もいるのではないかと考え、5月6日に熊本市にある熊本大学を訪れ、文学部の過去問を閲覧し、その複写を入手することに成功した。
■熊本大学文学部事務室のまさかの言葉
東京を午前10時過ぎの飛行機で出発し、羽田空港に戻ってきたのは21時30分。帰宅は深夜になるという1日がかりの行程であった。費用もそれなりに掛かっているが、大学編入を目指す学生にとっては一生の問題であるから、「受けたかったら、自分で取りに行って入手しなさい。」などというのは酷というもの。時給1000円と少しでアルバイトをしている学生に高い交通費をかけさせ、平日しか閲覧できない制度の中、熊本大学まで見に行けと言うことは、物理的には可能であっても事実上「過去問なしで、受験しろ」、さらには「受験は諦めろ」と言うに等しい。
僕もこの仕事をしている以上、今年受験の生徒はもちろん、来年度以降の受験生のことも考えなければならず、休みを利用して熊本まで行こうと決めたのである。4月21日にはもう一度、熊本大学に電話してゴールデンウイークのはざまの5月6日に閲覧が可能かを確かめた上で飛行機のチケットを手配して、この日に臨んだ。
過去問を複写し終えて、事務の方に問題を返した時に、やはり一言言わないと気が済まないので、事務の責任あると思しき方(女性)に伝えた。
松田:以前、電話でも申し上げましたが、遠隔地からの受験生が過去問を閲覧しようとすれば、高い経費をかけて1日潰して見に来るしかありません。貴学には遠隔地からも受験を望む学生はいます。その点をどうかご配慮いただきたいと思います。
熊本大学:ウチでは問題を複写して郵送するようにしています。
松田:え!? それはないでしょう! 僕はここに電話して『大学に閲覧に来る方法でしか見ることができません』と言われたため、それはおかしい、東京や大阪などの受験生に著しく不利だから何とかしてくださいと頼みました。それでもダメだったので文科省に相談しました。文科省でも『公開方法は各大学に任せている』と言い、対応することはできないとのことなので、今日、こうやって来ました。
熊本大学:電話で対応した者がどういう対応をしたのか分かりませんが、ウチでは希望すれば郵送するようにしています。
松田:HPには電話で事務室に相談してくれという趣旨のことが書いてあって、それで電話をしました。郵送などの制度はない、とはっきりと断られました。だから、わざわざここに来たんです。
熊本大学:そう言われましても、誰が対応したのか分かりませんし…。
最後は「交通費だけで5万円です。1日がかりです。」と、半分笑いながら言って、事務室を後にした。
■東京ー熊本間往復は無駄?
熊本大学文学部のHPには今でも郵送する旨についての記載はない。相変わらず以下の文言が掲載されている(過去問題について)。
文学部第3年次編入学試験の過去問題は、人社・教育系事務課 文学部教務担当の窓口で閲覧できます。
※事前連絡(電話×××-○○○-△△△△)が必要です。[受付時間:月~金曜日(休日を除く。) 8時30分~17時15分]
閲覧はできるということで、郵送はしないとは書いていないから間違いではないということなのか。そのあたり、熊本大学文学部が何を考えているのか分からないが、とにかく、僕は貴重な1日を行かなくても入手できた過去問を手にするために東京ー熊本間を往復したというわけである。
これは勝手な推測だが、熊本大学文学部では、僕が電話をした4月8日以降、遠隔地の受験生のために郵送する制度も併用することにしたのかもしれない。公開方法は各大学に任されているので、そのような対応が行われたのではないかと想像する。
こうして貴重な休みの日をほぼ丸1日無駄にしてしまったわけだが、結果的に過去問を入手できたので怒りはもちろん、虚しさもそれほどない。
過去問入手は編入学の進学指導をする者にとっても財産になるし、これで学生が(この問題ならチャンスがある)(受けてみたい)と思ってチャレンジしてくれれば、そうした苦労も吹き飛ぶというもの。
過去問を郵送してくれるようになったということは、熊本大学編入を目指す学生にとっては歓迎すべきことのはず。もし、僕の申し出がきっかけに制度が変わったのであれば光栄というものである。
■過去3年の合格率5.7%
熊本大学文学部の令和5年度3年次編入学学生募集要項では、過去3年の受験者数と合格者数が掲載されている。
令和2年度:受験者11人・合格者1人
令和3年度:受験者12人・合格者0人
令和4年度:受験者12人・合格者1人
編入学の世界では相当な難関と言っていい。「一定レベルに達しない受験生は編入学させない」という大学側の強い意思を感じるが、誤解を覚悟で申せば(そもそも学生を取る気があるのか)とも思える。募集定員は毎年度10人、過去3年で35人受験し合格者2人、合格率は5.7%という狭き門。出題内容を見るとかなり難しく、この結果も納得できる部分はある。
僕が教える生徒たちには是非ともこの難関に挑み、突破し、合格者に名を連ねてほしいと願っている。