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<テレビ朝日・本間智恵アナウンサーコラム>

我が家のリビングには、わりと存在感を放つ場所に腹筋ローラーが鎮座している。約15cmのホイール中央を30cmほどの棒が貫いた形状の、腹筋を効率的に鍛えられる器具だ。

ソファに座ると「目が合う」位置に置いてあるため、思い立ったときに手に持って四つん這いになり、ゴロゴロ前後へ転がす。

食事ではタンパク質の摂取を心がけ、週に1回ジムに通って筋トレに励む。

こんな自分を10年前、いや5年前の私は想像もしていなかっただろう。

◆好きではなかった運動が“必要不可欠”になるまで

私は昔から運動が好きではなかった。

幼い頃に習い事として新体操や水泳を経験したが、それも小学生まで。外に出かけるよりは家で本を読んだり絵を描いたりする方が好きだった。

中学高校時代の部活はコーラス部(いくつかの合唱コンクールに向けて活動したり、年に一度の文化祭でミュージカルを上演したりする)、大学に入ってからはアカペラサークルと演劇サークルに入っていた。

確かに身体は使うものの、歌や演技をする上で必要な身体作りをするくらいで、いわゆる運動習慣はなかった。

さて、時は流れて社会人になり、30歳を過ぎる頃になると、さすがに体力の低下を感じたり、食べた分だけ身体がゆるんだりするようになってきた。

ちなみに私はかなりの大食いで、ある程度の年齢まではどれだけ食べても太らなかったが、そんな体質も寄る年波には勝てなかった。

とにかく運動をしないので血行が悪く足はむくんでいたし、日常的に首や肩が凝り固まっていて、月に一度は頭痛や吐き気に苦しむほどだった。マッサージに行ってほぐしてもらうと、「お客さん、筋肉ないですね~。年取ったとき歩けなくなりますよ」と言われたこともある。

歩けなくなるのは、大変そうだ……と思い、ようやく、多くの人もすなる運動といふものを、私もしてみむとてするなりと重い腰を上げることにした。

まずは、近所を走ってみようと思い立った。無料だし。しかし運動が好きではない人間にとっては、いくら無料だろうが、近くに走りやすそうな公園があろうが、自由な時間にできるものだろうが、ものすごくハードルが高いのである。

いざ走ってみたらそれなりに気持ち良いとは思うのに、出かけるまでが、玄関までの距離が、果てしなく遠く感じる。もちろん、我が家は豪邸などではない。

私には、「契約」「制約」「予約」が必要だった。責任ともったいなさが生まれれば何とか動ける。

そうして、とあるエクササイズをするジムの契約をし、月額料金と参加予約に縛られることで、ようやく運動習慣が身についた。一時期は熱中して、週に5回行っていたこともある。

しかし、新型コロナウイルスの出現によって、その生活も乱されてしまった。大勢が集まる密閉空間に行くのが憚られ、一時的にジムも閉鎖された。職業柄、人一倍人と接することへのハードルを上げてしまっていたし、家に引きこもるように。せっかくついた運動習慣、さようなら―――。

もともと家で本を読んだり映画やドラマを見たりするのは好きだから、苦にならないと思っていた。しかし心も、身体も、気づけばどんどん重くなっていく。運動をしていれば感じなくなっていた肩こりが再発し、身体が重いから、またさらに動かなくなる悪循環。

コロナ禍によって趣味や習慣を見つめ直さざるを得なかった人も多かったと思うが、私も「不要不急」とは何か、たくさん考え、そして気づいた。私にとって身体を動かすことは、「不要不急」ではなくなっていた。

縛りがないと行かなかったはずの運動をどうやら好きになっているぞと、失って初めてその大事さに気づいたのだ。じっくり自分の身体と向き合って、自分の身体の声を聴きたいと思うようになった。

そうして、感染対策の面でも安心できる、パーソナルトレーニングを始めることになる。

◆「何を目指しているの?」

身体作りはとても奥が深い。骨格も体質も人それぞれなのだから、「体重〇キロになりたい!」「あの人みたいになりたい!」と言ってもそれが適しているとは限らない。

目標をイメージしながら、自分に合った体型に向けてトレーナーさんと「ここは筋肉をつけたい」「ここは減らしたい」と相談しながら部位ごとに意識を向けてトレーニングを進めていく。

背中を意識してケーブルを引いたり、ヒィヒィ言いながらお尻の力だけで重りを上げたり。始めた当初は週2回のトレーニングと食事管理をあわせて行っていたため、かなり身体が引き締まった。

身体が変わるのがあまりに楽しくて体脂肪を減らしすぎた結果、自信満々で受けたはずの人間ドックで低中性脂肪血症という結果が出たので(トレーニーあるある、皆さんもほどほどに)、今では食事制限はせず食べたいものをもりもり食べて、トレーニングを続けるのみにしている。

筋トレをしていると言うと、「何を目指しているの?」と一種の嘲笑の色を浮かべた目を向けられることがある。「そんなにしなくても良いでしょ」「ちょっと肉がついていた方が女性はモテるよ」などという、頼んでもいないアドバイスをもらうこともある。

何を目指しているかと言えば、「自分が心地良くいられる身体になること」だ。

誰かに“太っている・痩せている”などと評価されたり、もっとこうあるべきだと価値観を押し付けられたりする謂れなんてない。自分の体は自分だけのもの、あなたの身体はあなただけのものだから。自分のペースで、掲げた理想を目指して、時には頑張り、時には休み…を繰り返していけば良いと思う。

「運動、好きですか?」――そう問われたら、「まぁ…好きですね」と答えられるようになった。体育の授業以外、たいした運動をしてこなかった私が。

まだ「大好きです!」とはっきり言い切れるほどの間柄になれているとは言えない。気分が乗らないことも、面倒に感じるときもある。それでも、自分のことを、自分の身体を好きになれるように、心地良くいられるように、今日もジムへ行く。

モテるかモテないかなんて余計なお世話だ、とベンチプレスで鍛えた胸を張る。そして、腹筋ローラーによってうっすらと縦線が入った腹部を「もう少しだな」などとつぶやく。<文/本間智恵