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 国鉄最後のSL(蒸気機関車)が引退したのは1976(昭和51)年3月のことだった。それから40年以上たった現在、SLは観光列車として華麗に復活し、しかも意外なことに1980年代後半以降、徐々に数を増やしている。SL列車の楽しみは何といってもその迫力や生き物のような息吹を近くで感じられること。さらに、もともとがレアで目立つ列車ということもあり、沿線で手を振る大勢の人々を車内から見ていると何だかVIPになったような気分になってくる。乗っても見ても気持ちが高まる不思議な列車だ。そんなSL列車に乗るにはどこへ行けばいいのか、それぞれの特徴は、などなどを簡単に紹介してみよう。

文/服部朗宏 写真/服部朗宏、編集部

【画像ギャラリー】大型連休後半、まだまだ間に合う!! SL列車で「乗り鉄」を楽しもう!!(13枚)画像ギャラリー

SL列車はいつ、どこを走っている?

 2022年4月現在、SL列車が走るところは全国で10か所ある(明治村など博物館や公園施設などを除く現役鉄道本線)。そのうちJRは北海道、東日本、西日本、九州の4社で、四国を除く全部にあり、そのほかに民鉄では、大手の東武鉄道に加え、栃木県の真岡鐵道、埼玉県の秩父鉄道、静岡県の大井川鐵道でSL列車を走らせている。

 SL列車の運転日は観光シーズンでもある春先から初冬にかけての土・休日が多いが、例外もある。厳冬期の1月~3月のみに運転するのがJR北海道の『SL冬の湿原号』(釧網本線)。今年の運転はSLの不調でディーゼル機関車が代走することになってしまったが、冬のSLは蒸気を盛大に噴き出す様子が壮観で、例年は凍てつく時期ならではの迫力あるシーンに大勢の観光客が魅了されている。

冬季、道東の釧網本線の釧路~標茶を走る『SL冬の湿原号』。丹頂鶴の生息する釧路湿原を走り、丹頂鶴がすぐ近くを飛来することもある。来季の運行を楽しみにしたい

 栃木県内の観光地、日光、鬼怒川温泉エリアで運行する東武鉄道の『SL大樹』は運転日が多いのが特徴だ。行先や運行形態がやや異なったり、一部はディーゼル機関車となるが基本は毎日運転されている。他の鉄道では1往復のみの運転が多いのに対して、『SL大樹』は1日に2~3往復の設定があり旅のスケジュールに合わせて列車を選べるのも魅力だ。

首都圏からのアクセスがいい東武鉄道の『SL大樹』。観光地としても人気の鬼怒川温泉、日光エリアを走る。ほぼ毎日、しかも複数往復の運行なので気軽に乗車できる

 SL列車はどこでも人気が高く、確実に乗りたいなら予約は必須。各社ともにSL列車の公式サイトがあり、運転日や予約方法が書かれているので、まずはチェックしてみよう。

【各社のSL列車公式サイト】

◆JR北海道 SL冬の湿原号(釧釧網本線・釧路~標茶間 冬季限定 2022年は1/22~3/21で終了)

◆JR東日本 SL銀河(釜石線・花巻~釜石間 2022年は4/9~9/25。以降未定、2023年春で運転終了予定)

https://www.jreast.co.jp/railway/joyful/galaxysl.html

◆JR東日本 SLばんえつ物語(磐越西線・新津~会津若松間2022年は4/9~9/25。以降未定)

https://www.jreast.co.jp/railway/joyful/c57.html

◆JR東日本 SLぐんま みなかみ/SLぐんま よこかわ(上越線・高崎~水上/信越本線・横川間 2022年は4/29より運行中)

https://www.jreast.co.jp/railway/joyful/slgunma.html

◆JR西日本 SLやまぐち(山口線・新山口~津和野間 2022年は3/19~11/20)

https://www.c571.jp/

◆JR九州 SL人吉(鹿児島本線・熊本~鳥栖間※肥薩線不通のため 2022年は4/16~6/26。以降未定)

https://www.jrkyushu.co.jp/trains/slhitoyoshi/

◆真岡鐵道 SLもうか(下館~茂木間 2022年は4/2~12/25)

SLの乗車方法・運行日カレンダー – 真岡鐵道株式会社 (moka-railway.co.jp)

◆東武鉄道 SL大樹(下今市~東武日光・鬼怒川温泉間 2022年は基本毎日)

https://www.tobu.co.jp/sl/

◆秩父鉄道 SLパレオエクスプレス(熊谷~三峰口間 2022年は3/19~12/4)

SLパレオエクスプレス | 秩父鉄道 (chichibu-railway.co.jp)

◆大井川鐵道 機関車トーマス(新金谷~千頭間 2022年の機関車トーマスは4/29~9/25)

大井川鐵道【公式】 (daitetsu.jp)

大きさも形もさまざま SLの顔ぶれは?

 SLには用途や作られた時代によりさまざまな大きさや形態がある。左右のシリンダから動力を伝えるメインの車輪=動輪の直径が大きくて数が少ないのが旅客用、直径が小さくて数が多いのが貨物用だ。動輪径が大きければ1回転ごとに走れる距離は長いのでスプリンター向きであり、小さければ速度は出ないが空転は少なく重い列車を引くことができる。自動車風に言えば、動輪の直径が大きいのは「ハイギアード」、小さい動輪直径は「ローギアード」ということになる。日本の大正期以降では一般的に旅客用は動輪が3軸(C形)、貨物用は4軸(D形)が多く採用され、地方線区の客貨両用にはC形で動輪径が小さめの小型機関車が製造されてきた。有名な「デゴイチ」は形式名をD51といい、この「D」が動輪4軸を表している。動輪の軸数はA→B→C→D→Eとアルファベット順に数が増えていく。

 また、本線で長距離を走るものは石炭と水を積む専用の車(炭水車・テンダー)を本体の後ろに付けているが、地方の短距離用には軽量化対策とバック運転に便利なように炭水車を省略し、水タンクはボイラの両側に、石炭は運転室の後ろに積んでいる。機関車トーマスはこの「タンク型」だ。参考までに、SLの形式名のアルファベットに続く数字が10番台は「タンク型」、50番台、60番台は「テンダー型」を表す。

「デゴイチ」の愛称でSLを代表するD51は、大型のテンダー型の蒸気機関車。昭和30年代までは全国各地の幹線で活躍した

 現在、観光用SL列車で一番数が多いのはC11形タンク機関車で、JR北海道『冬の湿原号』の「C11 171」、東武鉄道『SL大樹』の「C11 207」「C11 325」、大井川鐡道の「C11 190」「C11 227」の5両もある。このうち、東武鉄道の207はJR北海道からの借り受け、325は真岡鐵道からの移籍で、東武では現在もう1両の「C11 123」を復活整備中。すでに試運転を開始しており、間もなく営業運転に使用開始される予定だ。

 大井川鐵道ではC11形のプロトタイプとなったC10形「C10 8」も所有している。これらのC10、C11形は小型軽量で使いやすいわりに力が強く、客車3~5両の観光列車を引くには十分であることから各所で復活できたのだろう。

 次に多いのは本線旅客用のC57形テンダー機関車で、JR東日本『ばんえつ物語』の「C57 180」とJR西日本『SLやまぐち号』の「C57 1」。本線用貨物機の代表格D51形も2両あり、JR東日本『SLぐんま みなかみ/よこかわ』の「D51 498」と、JR西日本『SLやまぐち号』の「D51 200」。地方線区客貨両用のC58形も2両で、JR東日本『SL銀河』の「C58 239」と秩父鉄道『パレオエクスプレス』の「C58 363」。残りは各1両ずつで、真岡鐵道『SLもうか』の「C12 66」、JR東日本『SLぐんま みなかみ/よこかわ』の「C61 20」、大井川鉄道の「C56 44」、JR九州『SL人吉』の「58654」というラインナップとなっている(2021年4月現在現役でないものを除く)。このうち、大井川鐵道の「C56 44」は戦時中にタイに運ばれたものを里帰りさせた特異な経歴があるのが珍しく、JR九州の「58654」は1922(大正11)年製とずばぬけて古い。

JR九州「SL人吉」を引くのは大正生まれの古典機関車「58654」。8620形という形式の蒸気機関車で「ハチロク」と呼ばれたりもする。大正生まれながら、部品のほとんどを新しく作り直して運行を続けている

窓の開く列車、開かない列車、レトロな車内を体験するなら旧型客車の列車を選ぼう

 SL列車の客車も各社でさまざまなものが使われている。我々が実際乗るのは客車なのだから、乗る客車についてもある程度チェックしておきたい。まずは、窓が開くかどうかだ。SL列車の魅力の一つはやはり煙を体感できること。大昔の現役時代はSLの煙は迷惑なもので、トンネルに入る時は窓を必ず閉めるのが常識だったが、観光目的なら少し開けた窓から石炭を燃やす臭いが入ってくるのもまた楽しい。いまあるSL列車で窓が開かないのはJR北海道『SL冬の湿原号』と、東武鉄道『SL大樹』の一部。それ以外は基本的に開閉ができる。ただし、開けるときは周囲の迷惑にならない程度にしておこう。

JR東日本の旧形客車。国鉄時代と変わらないニス塗りの壁や木の床が今も保たれているのは奇跡に近い。まさにSL列車の現役当時の雰囲気を味わえる

 次に気になるのは内装だろうか。壁や床に木を使った国鉄時代の旧形客車をそのまま使っているのはJR東日本『SLぐんま みなかみ/よこかわ』の一部(新系列客車の12系を使用する場合もある)と大井川鐵道だ。大井川のトーマス号が牽くオレンジの客車も実は国鉄時代の客車を塗り替えただけなので、内部は本物のレトロ車両。木の質感がお爺さん世代には懐かしい。真岡鐵道の客車も国鉄時代のものだが、こちらは昭和50年代製で比較的新しい。レトロというほどではないが、冬にはSLの蒸気を熱源にした昔ながらの蒸気暖房が入るので体験するのもおもしろい。これらの古い客車には当然冷房は付いておらず、夏の乗車には覚悟が必要だ。

 いっぽう、JR西日本『SLやまぐち号』の客車は一見すると非常に古めかしいが、実は2017年に新しく製造されたものだ。古い図面や写真などを参考にして、細かいところまで古い客車に近づけようとこだわったと同時に、冷房を完備したり、バリアフリー対応多機能トイレを設置するなど最新の設備も併設する意欲的な客車となった。

 その他の鉄道の客車も、元は国鉄・JRの車両だが内外装ともにかなりの手が加えられている。いずれも冷房完備で夏の乗車にも苦労はない。国鉄時代の急行列車の雰囲気が良く残っているのは秩父鉄道『パレオエクスプレス』と東武鉄道『SL大樹』で、逆に観光列車としての快適さを追求して豪華な内装に生まれ変わっているのはJR東日本『SL銀河』、『SLばんえつ物語』、JR九州『SL人吉』である。

JR東日本「SL銀河」の客車車内。JR北海道で客車をディーゼルカーに改造した珍車だったが、JR東日本に移籍して、『SL銀河』用に車内もユニークなものに改装された

乗車中はイベント盛りだくさん。乗車後はターンテーブルでの方向転換も見学できる!!

 乗車中の楽しみも沿線風景だけではない。多くの列車が車内販売に力を入れており、オリジナル弁当や地元の名産品のほか、SLグッズやゆるキャラとのコラボ商品などがいっぱいだ。ただし、弁当については予約販売主体のケースもあるので、確実に買いたい場合はネットや電話で予約しておこう。そのほか、車内でミニイベントが開かれたり、地元の人から車窓案内を聞くのも楽しい。

茨城県、栃木県を走る真岡鐵道の「SLもうか」では、終点茂木駅で機関車の回転シーンを安全に見学することができる。これもSL列車のハイライトシー

 SL列車は降りてからも目を離せない。ターンテーブル(転車台)での機関車回転シーンを間近で見学できるのは、真岡鐡道『SLもうか』(茂木駅)、JR東日本『SLぐんま みなかみ』(水上駅)、東武鉄道『SL大樹』(下今市駅・鬼怒川温泉駅)、大井川鐡道(新金谷駅・千頭駅)。そのほか、SL関連のミニ展示室として、真岡鐵道の「SLキューロク館」や大井川鉄道の「プラザロコ」があり、「SLキューロク館」では月に数回保存しているD51を圧縮空気で動かすイベントを催している。

岩手へGO!! 『SL銀河』は今シーズンで乗り納め 

 残念ながら、JR東日本『SL銀河』は2023年春をもっての運行中止がアナウンスされている。運転終了が近づくと訪問者が多数訪れて乗るのも見るのも難しくなるので、乗るなら早めがおすすめだ。

2023年春で運行終了が予定されている岩手県の釜石線を走る「SL銀河」。東日本大震災からの復興支援の意味合いもあるだけに、新しい形での復活を望みたい

 そのほかに運行中止が確定しているものはないが、SLは予備がないため、突然の不調により運転できなくなるケースもありうるので、思い立った時に乗りに行くのがやはりいいだろう。

 SLというとマニア向けだとかシニア向けだとか思うかもしれないが、本物を見て、腹の底に響くような汽笛にびっくりすれば考えも変わるはず。マニアでない人や子供連れにこそぜひ体験してもらいたい。大型連休の後半、ぜひSL列車を体験してしてみよう!

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