アウトドアブームを追い風にキャンピングカーも注目されているが、なかでも人気なのは軽トラや軽バンをベースにしたいわゆる軽キャンだ。
コンパクトなサイズであり、価格も本格的なキャンピングカーよりも手頃とあって支持されているが、とくに車中泊をメインターゲットとしたライト仕様のバンコンモデルではエブリイをベースとしていることが多い。
ライバル車としてダイハツ・ハイゼットカーゴはフルモデルチェンジしたばかりだが、なぜスズキが強いのか!?
文:山本晋也/写真:スズキ・ダイハツ・WEDS・ベストカーWEB編集部
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■大人気の軽キャン!! 実は大きく2種類あった
「軽キャン」と呼ばれる軽自動車ベースのキャンピングカーが人気だ。就寝定員2名となることが多い軽キャンは、子離れ世代からヤングカップルまで幅広く支持されている。
軽キャンといっても、軽トラックをベースに荷台部分を完全に作り変えたキャブコン(キャブコンバージョン)と軽バン(1BOX)をベースに室内を作り込んだバンコン(バンコンバージョン)と大きく2タイプにわけることができる。
キャブコンのベース車を見てみると、スズキ・キャリイとダイハツ・ハイゼットトラックは拮抗している印象がある。どちらを選んでも使い勝手に大差ないともいえるし、ベース車の違いよりも居住スペースとなる架装部分の出来が重視されるため、ベース車の違いはそれほど重視されていないというのが実情だろう。
むしろキャブコンの場合は、各ビルダーにおいて年単位に伸びている納期のほうが課題となっている。
■バンコン市場はスズキの独壇場!? そのワケはわずかな荷室の差にあった
一方で、ベース車のボディはそのままに内装を作り込むバンコンにおいては、圧倒的にスズキ・エブリイが主役となっている。その理由はどこにあるのだろうか。
まず言えるのは、エブリイの優位性というよりライバルの敵失ともいえる状況だ。エブリイのライバルであるダイハツ・ハイゼットカーゴは、2021年12月にフルモデルチェンジするまで、17年間も基本的なボディが変わっていなかったという事実がある。
現行エブリイは2015年にフルモデルチェンジしている。つまり、2021年まではエブリイとハイゼットカーゴを比較すると、明らかにハイゼットカーゴが古く、エブリイ一択といえる状態だったのだ。
もちろんハイゼットカーゴについても、モデルライフが長くなる中で、インパネを一新したり、ステレオカメラを使った先進安全装備を備えたりするなどアップデートはしていたが、いかんせん軽バンの性能として重要なラゲッジスペースにおいて劣っていたのだ。
バンコンというのはボディには手を入れないタイプのキャンピングカーゆえに、ベース車のスペースユーティリティは絶対的な差となってしまうのだ。
具体的に、荷室サイズのスペックを比べてみよう。
現行エブリイ(後席格納時)
荷室長:1910mm
荷室床面長:1955mm
荷室高:1240mm
荷室幅:1385mm※4名乗車時
旧型ハイゼットカーゴ(後席格納時)
荷室長:1860mm
荷室床面長:1950mm
荷室高:1235mm
荷室幅:1375mm※4名乗車時
■数ミリの差が命!! わずかに広いエブリイのパーツが自ずと増加傾向に
「ほんの数mmの違いじゃないの!」と思うかもしれないが、ボディサイズが規格で定められている軽バンにおいて、その数mmというのは追いつけない圧倒的な差になってしまう。そのためキャンピングカーを仕立てるビルダーにとっても、ユーザーにとっても「ベースにするならエブリイ一択」という印象を与えてきた。
こうした数字の違いはキャンピングカーとして内装を仕立てるほどコストはかけず、ウインドウシェードで目隠しをして、ラゲッジにマットなどを敷くくらいのモディファイで車中泊仕様に仕立てるユーザーにとっても明確な差として認識されていた。
こうなると、カスタマイズアイテムの開発もエブリイを軸に動くようになる。バンパーやグリルといったドレスアップ系アイテム、「アゲ系」と呼ばれるリフトアップ・サスペンションもエブリイのほうが充実していった。モディファイの基本となるアルミホイールの中にはエブリイ専用デザイン・スペックのモデルもあるほどだ。
このようにビルダーのノウハウもエブリイを中心に溜まっていくし、車種専用アイテムも充実しているとなれば、ユーザーがエブリイを選ぶのは当然の流れ。軽キャン、軽バンでの車中泊ブームとエブリイがフルモデルチェンジしたタイミングがピッタリとハマったこともエブリイ人気につながったといえる。
このあたり軽自動車の歴史に詳しい人ならば、スズキ・ワゴンRとダイハツ・ムーヴの関係を思い出すかもしれない。車両としての機能は大差なかったが、ワゴンRがカスタマイズ業界における主役のポジションを獲得したことで、多くのユーザーはその後もワゴンRを選ぶようになった。ワゴンRについては完全な昔話だが、「歴史は繰り返す」という。
軽キャン分野におけるエブリイの人気ぶりにはキャンピングカーとしての素性の良さだけでなく、カスタマイズアイテムの充実といった部分があるのは無視できない。車中泊仕様として作り込むにしても車種専用に作り込まれたラゲッジクッションなどの選択肢が充実しているエブリイを選ぶのはユーザーとしては当然の選択といえるのだ。
■勢力図が変わる可能性大!! 新型ハイゼットカーゴはエブリイより広いスペースで勝負に
ところで、新型になったハイゼットカーゴの荷室サイズは以下のように、すべての要素においてエブリイを凌駕するスペックとなっている。
新型ハイゼットカーゴ(後席格納時)
荷室長:1915mm
荷室床面長:1965mm
荷室高:1250mm
荷室幅:1410mm※4名乗車時
さらに、ハイゼットカーゴの上級仕様といえるアトレーには軽バンとしては贅沢な先進運転支援システム(渋滞対応ACCや車線中央維持機能)といったツーリングユースで役立つアイテムが備わっている。気ままにドライブに出かけて、気に入った場所で車中泊を楽しむといったユーザーにとってはアドバンテージを感じることだろう。
ラゲッジスペースにおけるミリ単位の違いを気にするユーザーがハイゼットカーゴやアトレーに宗旨替えするのか、それとも、現行エブリイの充実したカスタマイズアイテムやノウハウが勝つのか。
2022年の軽キャン業界は、そんな天下分け目の大勝負が繰り広げられているのである。すでに新型アトレーをベースとした軽キャンは高い評価を集めている。はたしてエブリイは軽キャンキングの座を守ることができるのだろうか。
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