2022年4月8日、欧州トヨタは欧州Aセグメントの小型SUV、アイゴXを欧州で発売すると発表した。大ヒット中のヤリスクロスと比べてどうなのか?
また過去にレクサスが発表した2015年のジュネーブショーに出展されたレクサスのウルトラコンパクトクラスのコンセプトカー、「LEXUS LF-SA」との関係性はどうなのだろうか?
もし、アイゴXを日本で発売したら成功するだろうか? 過去のiQの失敗が頭をよぎるが、現在の日本は空前のSUVブーム。ライズがSUV販売NO.1を獲得している。アイゴXの日本導入も真剣に考えたほうがいいのではないだろうか。
文/柳川洋
写真/トヨタ、ベストカーweb編集部、ベストカー編集部
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■超コンパクトでも妥協が少なく、他のクルマとは間違われない個性を誇るアイゴX
アイゴX(クロス)は、都市部での混雑した街中でも、郊外でも、高い安心感を持って運転できるよう作られた欧州向け5ドアコンパクトクロスオーバー。全長は3700mmとまさにコンパクト、軽自動車と300mmしか違わない。フィアット500やVW up!などが競合となるいわゆる「Aセグメント」と呼ばれるクルマだ。
欧州で2021年カーオブザイヤーを受賞するなど定評のあるヤリスやヤリスクロスと同じGA-Bプラットフォームを採用し、トヨタの言うところの「コンパクトでも素性のいいクルマ」を目指して作られた。
他のクルマと間違えられることのない、洗練された目を引くデザインを目指し、人の真似をするフォロワーではなく自分から新しい何かを創り出すクリエイターを意識して設計された。
ツートンカラーや18インチアルミホイール、セグメント初のキャンバストップの設定、JBLの300W(!)アンプ、200mmサブウーファーを含むプレミアムサウンドシステム設定など、さまざまなスパイスが効いたクルマとなっている。
コンパクトカーを運転しているとトラックや大型SUVなどに囲まれた時に閉塞感を感じてしまうことがあるが、アイゴXでは安心感を持って運転できるよう、ヒップポイントが高められ、Aピラーの角度を寝かせてウインドスクリーンを大きくし、広い視界が確保された。
エンジンはハイブリッドの設定はなく、直列3気筒の1リットルエンジンから72ps/93Nmを発生。トランスミッションはCVTとマニュアルが選べる。CVTは20kg以上軽量化され、性能も向上しているそうだ。ちなみに4WDの設定はない。
欧州A/Bセグメントで最も軽量な車体骨格を誇り、結果として燃費はWLTPでCVT/MTそれぞれ1リットルあたり20.4km/21.3kmとなっている。ワイドなタイヤを装着していることを考えると悪くない数字だ。
超コンパクトカーとしてはスペックに妥協が少なく、デイライト機能付きのコンビネーションLEDヘッドライトやトヨタセーフティセンスなどの安全運転支援システム、9インチのタッチパネルディスプレイやワイヤレス充電など、最新装備がおごられている。
興味深いのは、外装色によってクルマのキャラクターが大きく変わって見えること。たとえばチリレッドは華やかで若々しく、カルダモングリーンはサイバーパンク感に溢れ、ジンジャーベージュは上品で高級に見える。
価格は、ドイツでは1万5390ユーロからと2021年11月に発表があった。2022年4月8日の発表では価格については触れられておらず、仮に11月に発表された価格で販売される場合、現在の為替相場では210万円を超えてくる。
GA-Bプラットフォームを共有する兄貴分のヤリスクロスは、アイゴXにはないハイブリッドと4WDの設定があり、0.5リットル大きい1.5リットルエンジンから120ps/145Nmを発生する。アイゴよりも50ps近くパワフルだ。ヤリスクロスは前後ともディスクブレーキが採用されているが、アイゴXのリアブレーキはドラム式となっている。
全長、全幅、全高を比べると、アイゴXの3700×1740×1525mmに対し、ヤリスクロスは4180×1765×1590mm。ホイールベースはアイゴXの2430mmに対して、ヤリスクロスは2560mm。トレッドはアイゴXのフロント1540mmリア1520mmに対しヤリスクロスは前後とも最大1525mmと、兄貴分を弟が一部逆転している。
アイゴXは全長が48センチ短いにもかかわらずホイールベースでは13センチしか短くないので、サイズ感以上の居住性が確保されサイズ感以上の居住性が確保されていると言っていいだろう。
■欧州をメインターゲットとしたトヨタの超小型車といえば思い出すiQ
トヨタの欧州市場をメインターゲットにした超コンパクトカーといえば、トヨタiQを思い出す人も多いのではないだろうか。欧州では2009年にローンチされ、軽自動車より短い全長2985mmで4人乗車可能。
1/1.3リットルのガソリンエンジンと1.4リットルディーゼルターボエンジンが採用され、世界初の後部窓ガラス用エアバッグを含む9つのエアバッグや、横滑り防止電子制御などハイテク安全装備が搭載された「マイクロプレミアムカー」という華々しいウリ文句だったが、結果としては失敗作となってしまった。
発売当初の2009年には欧州全体で約4万4000台が販売されたが、2012年には4分の1以下の約9200台の販売となり、2015年に販売終了となった。
iQの苦い経験をアイゴXに重ねる人もいるかもしれないが、おそらくそれは間違いだろう。実はiQの販売不振の原因の一つは、当時アイゴがより人気だったということが挙げられる。
リーマンショックからまだ立ち直れないでいた欧州経済に、ギリシャの財政危機に端を発した債務危機が再び襲いかかったタイミングで、ベーシックグレードでも12700ユーロ(当時の為替レートで100万円台半ばから後半)を超える強気のプライスタグをつけていたiQと比べ、より大きくて50万円以上安いアイゴに人気が集まったのは自然の成り行き。
やや売れ行きが落ちた2013年、14年を除けば、アイゴは欧州でコンスタントに毎年8万〜10万台が売れる人気を誇るコンパクトカーなのだ。
日本においても2008年10月に発売され、発表直後は2500台の月販目標に対して約8000台の受注が入るなど、幸先のいいスタートを切った。ジャーナリストからの評価も高く、2008年11月には「日本カー・オブ・ザ・イヤー2008-2009」を受賞。
2009年には1.3Lエンジンが追加され、2010年11月には6MT版を追加。さらに2011年10月には英国の超高級ブランドであるアストンマーティンが、トヨタiQをベースとする超プレミアム・コンパクトカー「アストンマーティンシグネット」をリリース。
しかし、2016年3月に生産終了、4月に販売終了となってしまった。結局、約7年半あまりでたった3万1333台しか売れなかった。軽自動車のシェア4割近くに達する日本では厳しかったか……。
■アイゴXの日本発売は? アイゴXベースのレクサスのコンパクトSUVのEVが出る?
アイゴXは日本で発売されることはあるのだろうか。現在の半導体不足や中国でのコロナ感染拡大などの不安定要素を考えると、新型車を国内導入して、ただでさえ納期の長期化で悩む販売現場にさらなる負担がかかる事態は避けたいと考えるのが普通だろう。
またチェコで製造される比較的安価なクルマを逆輸入するというのもコストの面でやや考えにくい。残念ながら日本での発売は期待薄かもしれない。
また2021年秋に、一部で「トヨタ東日本の岩手工場にて、レクサスの新型コンパクトスポーツタイプSUVの生産が検討されている」と報じられ、それがアイゴXベースなのでは、という憶測が生まれた。
同工場ではGA-Bプラットフォームを採用しているヤリスクロス、アクアを生産しているだけに、それなりの信憑性があるかもしれない。
2015年のジュネーブショーに出展されたウルトラコンパクトクラスのコンセプトカー「LEXUS LF-SA」を見ると、アイゴXと似ていなくもない。
3ドアと5ドアという違いはあるものの、当時発表されたスペックも、全長3450×全幅1700×全高1430mmというもので、アイゴXに近いサイズ感だ。また意欲的な装備を搭載したコンパクトカーというコンセプトも一致している。
レクサスは2030年までに欧州・北米・中国で販売される全ての車種をEVとし、2035年までに全車EV化を果たすと公約していることを考えると、仮に新型コンパクトスポーツSUVが登場するとなるとEVである可能性が極めて高い。
そしてGA-Bプラットフォームの出来の良さを考えると、結果的にアイゴXを4WDのBEVにしたような見た目のクルマがレクサスのバッチをつけて登場してもおかしくはない。
ただ2021年末のトヨタのBEV戦略説明会では、レクサスのバッチをつけたコンパクトSUVのコンセプトカーは登場しなかった。
2017年5月、豊田章男会長は「トヨタは退屈なクルマはもう作らない、もっといいクルマづくりを進めていくが、その原点は小さくても安全・快適で運転して楽しいコンパクトカーを安価な価格で実現するところにある」と宣言した。
その思いが形になったのが、当時発表されたばかりのCH-Rであり、直近のヤリスやヤリスクロス、アクアもその延長線上にある。アイゴXも間違いなく豊田章男会長の強い思いを引き継いでいるクルマに仕上がっているだろう。
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