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復帰っ子世代が沖縄の政治や選挙戦のあり方を塗り替える可能性について前回述べたが、これまでの経験から筆者が憂慮する事態がある。

ここで想いだすのは2013年2月10日に行われた浦添市長選だ。NPO代表などを務めた無党派(当時)の松本哲治氏が初当選を決めた選挙である。有力候補の三つ巴となったこの選挙にはきわめて複雑な背景があるが、詳しくは批評ドットコムの過去記事を参照してほしい。

「前に進めない」沖縄の政治風土

沖縄政治を停滞もさせる基地問題(igamania /PhotoAC)

要約していえば、市民本位の政治を掲げた松本氏は沖縄初の公募によって選ばれた首長候補であったが、当時まだ自民党県連の重鎮だった翁長雄志那覇市長の政治的画策に翻弄され、市政上の大きな課題ではなかった「那覇軍港の浦添移設問題」に巻き込まれるかたちで選挙を闘わざるをえなくなった。結果的に奇跡的な当選を果たしたが、市民派市長としてのエネルギーは、かなり削がれてしまったと思う。

市民本位の市政を貫こうとしても、沖縄の政治風土にはそれを許さない環境がある。つねに「基地」が政治課題として最前面に出てしまうのだ。基地が最前面に出てくれば、首長のエネルギーや行政資源の一部が基地問題に吸収され、他の分野が手薄になる。基地反対や基地縮小が沖縄県民の矜恃であることはわかるが、つねに基地に振り回されるような政治や行政のあり方は健全ではないというのが筆者の考え方だ。

松本氏は、沖縄のこうした政治風土に振り回され、不要な苦労を強いられたと思う。筆者は糸数氏がこうした政治風土に呑みこまれることを怖れているのである。

最大の問題は貧困

貧困問題の解決を期して出馬の可能性を示した糸数氏の問題意識は、現在の沖縄において最大級に尊重されるべきものだ。2002年に沖縄振興開発特別措置法が沖縄振興特別措置法にあらためられて以来、「全国47位の1人当たり県民所得の改善」が謳われているにもかかわらず、「沖縄の貧困」が県政上・市政上の深刻な課題に浮上したのはごく最近のことだ。

復帰した1972年以降でいえば、50年にわたる沖縄振興予算の累計総額は14兆円にも上るが、その間1人当たり県民所得の相対的順位はまったく改善されなかった。改善のための手がかりさえ見つけられなかったのである。どうかしていると思う。このままではいけないと思うのが自然な反応だ。

糸数氏は、自身が代表を務めるNPO「にじのはしファンド」で、熱心に貧困問題に取り組んできたが、一NPOの力の限界も感じているはずだ。首長を始めとした政治家、公務員、企業経営者、一般の市民・県民に至るまで、皆で問題意識を共有して貧困問題に取り組まないと前には進まないと思う。そのためには低所得者や無所得者の救済措置や福祉のあり方を再検討するだけでなく、子育て・教育やまちづくり・産業の育成など広汎な分野での改善措置や意識改革が必要だ。党派的な利害や主張に拘っている余裕はないのである。

夜明けの那覇。沖縄政治に新時代は訪れるか?(Sean Pavone /iStock)

新世代の合理的改革に期待

抜本的な改革ができるとすれば、沖縄戦や米軍統治の経験のない「復帰っ子」を自覚する世代ではないかと筆者は思っている。今こそ、過去の経緯や既得権から自由で、客観的・合理的な考え方にも慣れ親しんでいる復帰っ子の出番だ。

糸数氏出馬の意義を否定するような、あるいは糸数氏を自陣営に取りこんで操ろうとする動きがこれから幾度も出てくることだろう。選挙戦では、「大人」としての戦略や戦術も必要となるだろう。

だが、市民・県民と共に貧困問題に取り組むという初志を貫くことこそ、沖縄の「前に進めない」政治風土を変える絶好の機会になりうるのではないか。まだ候補者も出揃っていなければ、選挙戦の予想も全くつかない状態だが、糸数氏と復帰っ子世代には、さまざまなノイズや圧力・画策を跳ね返して、沖縄の未来のためにぜひ奮闘してもらいたいものだ。