高騰するエネルギー価格により、このところ「新電力」と呼ばれる電力の小売事業者の撤退や休止が相次いでいる。そんな中、東北電力が新電力から契約の切り替えを求める企業の受付を停止していることが分かった。
九州電力も新電力からの契約切り替えの受付を停止している。さらに、東京電力も4月に入ってから事実上、受付を停止した。なお、3社ともに、家庭用の低圧契約については、他社からの切り替えは受け付けている。いずれも、追加で電力を供給すると採算が取れないことが理由だ。
新電力と言えば、このところ、ネット上でも「電気料金が上がった」といった声が多数寄せられている。また、静岡県掛川市が新電力に切り替えたところ、市施設の電気料金が高騰。電気料金が、従来契約より5000万円も増加したことが先日、複数メディアで報じられると大きな話題となった。
いきなり4倍もの電気料金請求
東北電力管内の新潟市の会社経営者(50代男性)に話を聞くと、新電力に切り替えたことで電気料金は、東北電力と契約していた頃と比べると一時、2倍以上に値上がりしたこともあるという。
「2020年12月に新電力に切り替えました。切り替えた当初は、確かに電気料金は安くなりました。新型コロナの影響で売り上げも落ちていたところ、電気料金が下がったのは助かりました。突然、様子がおかしくなったのは、昨年末の頃でしょうか。いきなり、それまでの4倍もの電気料金が請求されるようになりました。東北電力と契約していた頃と比べても、電気料金は2倍以上になりました。」
この会社が契約したのは、東証一部上場企業のグループ会社。新電力のメリットを説明され、「東北電力より確実に電気料金は安くなる」と言われたという。
「大きな会社のグループ会社という安心感もあり、料金は安くなるという言葉を信じて新電力と契約しました。今考えると、リスクもよく分かっていなかったのかもしれません。」
「市場連動型」料金プランの落とし穴
この会社が、新電力と交わした契約は「市場連動型」料金プラン。電気料金が、日本卸電力取引所(JEPX)の市場価格に連動するというものだ。市場価格が抑制された状況であれば、電気料金が安くなる。反対に、市場価格が高騰すれば電気料金も高くなる。
一方、東京電力や東北電力などの大手電力会社が採用しているのが、総括原価方式。市場価格の影響を多少は受けるものの、「市場連動型」料金プランと比べると軽微だ。市場価格が安くなっても、電気料金はあまり安くならないが、市場価格が高くなっても、「市場連動型」料金プランほど電気料金は高くならない。
取材に応じてくれた会社経営者は、「昨年末に突然4倍もの電気料金が請求された」と語っていたが、これは、昨年冬に起こった電力需給ひっ迫により、JEPXスポット取引価格が一時的に急騰したことが理由だ。
この会社経営者は、この時点で「東北電力より高くなったじゃないか、話が違う」と、東北電力に契約を戻したという。今になって振り返ると、この時の判断は“英断”だったと言える。日本はその後、さらなるエネルギー価格の高騰に見舞われている。もしこの時、契約を東北電力に戻していなければ、後々より高額の電気料金を支払わなければならなかったところだった。
最終保障供給制度とは
新電力からの切り替え受付を停止している電力3社はいずれも、新電力からの切り替えができなかった事業者に対して、「最終保障供給制度」を適用するとしている。電力の供給自体は受けられるが、標準的な料金の2割増しの電気料金がかかってしまうという制度だ。
東京電力パワーグリッドによると、3月末の「最終保障供給制度」の契約件数は、前年同期に比べ3割増えた662件だった。東京電力管内だけで662もの事業所が、本来の電気料金の2割増しで契約している状況だが、これは新電力に切り替えていなければ必要のなかった出費だ。特に経営状態が芳しくない企業にとっては大きな痛手だろう。
取材に応じてくれた会社が新電力と契約した、2020年12月と今年4月のJEPXスポット取引価格を比べると、5倍ほどの差で今年4月の方が高い。加えて、日本と欧米との政策の違いが原因の一つである円安は、これからも一定期間は進んでいくと見られる。さらに、緊迫する世界情勢の中、電気の原料の原油高もいつ収束するか見通しが立たない。このような状況で、JEPXスポット取引価格がどこまで上がるか誰にも分からない。
電気料金の値上がりは、既に家庭に大きな影響が与えているが、企業への影響はより甚大なものとなっていきそうだ。