スズキの小型SUVである「エスクード」が昨年9月をもって販売終了となっていた事実をご存じであろうか? 2015年に登場した現行モデルは。残念ながら販売成功とはいえず、同じく輸入車だったバレーノ同様自然消滅したかと思われた。
ところが、突如今月21日に新型エスクードが発売された。しかもフルハイブリッド仕様に進化するというが、ウソかマコトか4代目の売れっぷりも含めて検証してみたい。
文/清水草一、写真/スズキ
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■海の向こうでフルハイブリッドのビターラが高らかに登場!
スズキは欧州でこのほど、ビターラ(日本名エスクード)のフルハイブリッドモデルを発売した。ビターラにはすでに、48Vのマイルドハイブリッドモデルが存在し、日本を除く世界各地で販売されているが、さらなる電動化の強化のため、今回、フルハイブリッドを開発したのである。
ビターラのフルハイブリッドモデルには、K15C型1.5L直4ガソリンエンジン(115ps)が搭載され、それをアシストするモーターは、ジェネレーターと一体設計の「MGU」。最大出力33ps、最大トルク6.1kgmを発揮する。
エスクード(≒ビターラ)は、日本国内では昨年9月いっぱいで販売を終了している。ぶっちゃけ、S-4 Sクロスともども、まったく売れなかった。
よって、このビターラのフルハイブリッドモデルが日本に導入される可能性は極めて低い。ほぼゼロと言っていいだろう。ハイブリッド王国の日本で、国産メーカーの作るハイブリッド車が売られないのは、まったくもって残念無念である。
そこでまずは、昨年販売が終了した4代目エスクードというクルマを振り返ってみたい。
■4代目はFFベースのシティ派ライトクロカンとして2015年に登場!!
4代目エスクードが登場したのは2015年。元来エスクードは、ジムニー同様のラダーフレームを持つ本格派のクロカン4WDだったが、4代目は乗用車的なフルモノコックボディ+FFベースのオンデマンド型4WDにリボーン。流行りのシティ派ライトクロカンとなった。
思えばエスクードというクルマは、デザインテイストが代ごとに大きく変っている。初代はフランス車を思わせるシンプルかつクリーンなデザインで、日本でもヒットしたが、2代目は一転して途上国向け? の丸みを帯びた鈍重なデザインとなり、国内での売れゆきは急降下。
3代目はフロアパンにラダーフレームを溶接した硬軟折衷的な構造に変わり、デザインは直線基調に回帰したが、国内販売はまったく回復しなかった。
そして4代目は、前述のようにモノコックボディとなり、デザイン的にはプアマンズ・レンジローバー的な気品あるものになったが、いかんせん、インテリアの質感が信じられないほど低かった。
■4代目はハンガリー生産の輸入車だったが、人気はイマイチ。その理由は……
インテリアの質感の低さは、バレーノもほぼ同様の傾向を持っていた。ただ、インド製のバレーノに対して、エスクード(ビターラ)はハンガリー製。バレーノがほぼ途上国向け商品であるのに対して、エスクードは欧州を含む世界各地で販売されるグローバルモデルだ。
欧州といっても経済状況はいろいろで、西欧と東欧とでは所得水準も異なるが、それにしても、エスクード(ビターラ)のインテリアはプラスチック感満点で、「東欧ではこれでオッケーなのか?」と思わざるを得なかった。
もちろん、日本ではオッケーではなかった。ライバルに対して価格が大幅に安いならともかく、エスクードは200万円台という真っ当な価格帯で売られていた。
これがラダーフレームを持つ本格派のクロカン4WDなら、まだ許される面があったかもしれないが、現行エスクードはシティ派のライトクロカン。シティ派でこのインテリアでは、戦えるはずがない。
このあたり、スズキがどのような戦略を持って商品を展開しているのか、やや理解が難しい部分があった。途上国向けの安価なクルマならともかく、先進国でこのインテリアでは到底ムリではないだろうか?
■スズキ車の販売は日本の軽を除くと途上国がメイン。質感にはコストはかけられない
そこで、遅ればせながら、昨年のスズキの生産台数と販売台数の地域別の内訳を見てみた。
<生産>
日本/87万4927台
ハンガリー/10万7822台
インド/166万5811台
その他(主にアジア)/21万7092台
合計/286万5652台
実は、ハンガリー工場で生産されている台数は、スズキ全体から見ると、ごくわずかであることがわかる。
<販売>
日本/60万8381台(うち登録車は9万9213台)
欧州/23万6314台
インド/139万7249台
インド以外のアジア+その他の国々/52万1902台
合計/276万3846台
日本専用である軽自動車を除くと、先進国で売られているスズキ車は、全体の1割ほどに過ぎない。日本でもそうだったが、欧州でもエスクード(ビターラ)やSX-4 Sクロスは相当なレア車で、メインは途上国向けだったのだ。途上国では、自動ブレーキなどの先進安全装備を外し、その分安く売られている。
■フルハイブリッドとはいうものの、旧ソリオ等に設定されたAGSを使ったあの方式となる……
ビターラのフルハイブリッドモデルについては、試乗がかなわないのでなんとも言えないが、伝わってくる話を総合すると、フルハイブリッドと言っても「マイルド・ストロング」の領域で、モーターのアシストは中低速域にかぎられ、エンジン回転が少し高まるとゼロになる。EVモードも存在するが、走行可能領域は非常に狭い。
また、ミッションは6速AGS(オートギアシフト)のみ。このAGS、一時スズキは国内でも熱心に展開したが、完全に敬遠され、現在は商用車のエブリイやスーパーキャリイに残るだけになっている。
欧州でも、「なぜいまさらAGSを復活させたのか」という疑問の声が上がっているという。ビターラの48Vマイルドハイブリッドモデルには、6ATが組み合わされていたのだから、当然といえば当然だ。
燃費も、48Vマイルドハイブリッドモデル(WLTPサイクル燃費17.5km/L)に対して、フルハイブリッドモデルは、わずかな向上(同18.8km/L)しか見られない。
こうしてデータを見てみると、ビターラのフルハイブリッドは、スズキ得意の実験的なモデルだろう……という結論になる。
■今回日本にも投入されるフルハイブリッドモデル。スズキ得意の実験的モデルで終わるのか?
スズキは非常に挑戦的なメーカーで、たとえ未熟であっても、さまざまな新技術を市販車に搭載して販売してきた。ツインのハイブリッドなどはその典型。トランスミッションとエンジンの間に薄いモーターを挟み込み、二人乗りのシートの後ろに16個の鉛蓄電池を積んで、発進や上り坂だけアシストする構造だった。
いかにコストダウンのためとは言え、プリウス誕生の6年後に、あえて鉛蓄電池を使ったのはあまりにも無謀な挑戦で、ツインハイブリッドは超超レア車で終わった。
おそらくビターラのフルハイブリッドも、同じ道を歩むだろう。それはデータを見れば一目瞭然である。
しかし、こういった勇猛果敢な姿勢こそが、スズキの躍進を支えてきた。あらゆるクルマがグローバル化し、均質化するなか、先進国で明らかな途上国向けモデルを販売し、大惨敗を喫してくれるのはスズキくらいだ。失敗したっていいじゃないか! カーマニアはスズキの失敗を温かい目で見守っている!
だからスズキさん、ちょっとだけでいいから、ビターラのフルハイブリッドを日本に輸入しないのかな?と思っていたら、なんと4月21日に「エスクード・フルハイブリッド」として日本仕様も発売されるとの驚愕の情報が入ってきた!カーマニアには垂涎の的となるか? 私は買う勇気はないですが……。無責任でスイマセン。
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