沖縄の地元紙「琉球新報」が掲載した「米兵が本紙記者に銃口 那覇軍港警備訓練の取材中に」、「米兵、本紙記者に銃口 取材への威嚇に抗議する」との記事にミスリードではないかとの声が出ているが、どう捉えたら良いのか。前回は当事者のカメラマンに話を聞いたが、今回は第三者の専門家として、元陸将で中部方面総監を務めた日本文理大学客員教授の山下裕貴氏の見解を尋ねた。
動画から見えてきたこと
「動画を見る限り、米兵たちは建物の周囲を警戒する訓練を行なっているように見えますね。250メートルも離れていれば、米兵から記者は豆粒ぐらいにしか見えないので、ほとんど意識していなかったでしょう。全体を俯瞰しながら警戒体勢を取ったところ、偶然向かいでカメラマンが望遠レンズでのぞいていたというのが、実際の状況だったのでは」
至近距離から銃口を向けられたなら確かに威嚇と言えるだろうが、今回はそうではない。250メートル離れたところから軍事訓練を望遠鏡で眺めていたら、銃口がこちらを向いたという話である。
「記者の側から見れば、フェンス越しに望遠レンズでのぞくと自分のほうを狙ったように見えたのかもしれません。でも、『あなたに向けたわけではない』というのが、現実でしょう。銃を構えていた米兵は、琉球新報の記事を見てさぞや困惑したのではないでしょうか。記者の誤解や思い込みもあったと思います」
撮影した琉球新報の記者(カメラマン)は、「民間地に銃口を水平に向けることが問題」と指摘していたが、山下氏の見解は異なる。
「米兵がこうした訓練を行うことは十分あり得ます。米軍は自衛隊に比べて実戦的な訓練を重んじるため、時には実戦の場と同じように水平姿勢を取る必要がある。建物の外にも敵兵やテロリストが潜んでいる可能性がありますから」
動画には、指導官らしき人物も映っていたと指摘する。
「訓練なので、指導官に一つ一つ動き方をチェックされていたのではないかと考えられます。マニュアル通りに動いた結果が、今回の動きだったのでしょう。米兵の側に、特に問題はないと言えます」
「記者に銃口を向けた」というより、「記者に銃口を向けたように見えた」というのが正確な表現だったのかもしれない。
県民感情への配慮必要
とはいえ、琉球新報が今回のような記事を掲載した背景として、沖縄独自の歴史や風土、県民感情を無視して語ることはできないという。
「第二次大戦で地上戦を経験し、戦後も30年近くにわたって米軍の占領下に置かれた沖縄では、反戦意識や米軍基地に反対する意識がとりわけ強い。そうした県民感情を考えれば、米軍側も訓練に支障のない範囲で、ある程度の配慮をすることは必要かもしれません」
沖縄県の玉城デニー知事は、「記者に銃口を向けた」との記事を受けて「けしからん。絶対にあってはいけない」と米軍に対し不快感を示した。やや一面的過ぎる反応にも思えるが、沖縄県知事としては自然な対応だと山下氏は解説する。
「分かっていても県民の代表者としては、米軍を庇うようなことはなかなか言えないと思います。米軍を庇うような発言を、沖縄の世論は受け入れないでしょう」
琉球新報の今回の記事や社説を改めて読むと、決して間違いではないものの、いささかミスリードだったようにも思える。たとえば、記事中に両者の距離感や肉眼で見た際の見え方などを盛り込んでいれば、もう少し客観的な記事になったのではなかろうか。
とはいえ、それほど強い反基地感情が背景にあり、そうした沖縄の世論を代弁した結果とも言えるのかもしれない。沖縄県民の人々は、今回の記事をどう捉えているのだろうか。